『アスコラク‐首狩天使‐』を拝読させて頂きました。
とにかく、素晴らしい! 色んな時代、色んな地域で暮らす人々。多種多様な文化の中で、必死になって生きる人たち。人々の喜びや怒り、悲しみが、丁寧に描かれています。作者様の才能によって、人々の息遣いが聞こえる……それ程、リアルなものになっています。
アスコラクは、不幸な少女と出会います。イネイとアス。天使と少女は、共に行動します。100年経っても、二人の絆は切れません。
アスコラクは、人の道を踏み外したものを裁きます。ただ、罰するのではなく……。人ではない、可哀そうな化け物たちを、救う為に。
イネイも、アスコラクに救われました。天使と少女は、これからも……共に行動していきます。恐らく、天使が役目を終える時まで……。
アスコラク‐首狩天使。人の姿だと……人々に記憶されません。
儚くて……悲しくて……ただ、素晴らしい。
皆様、首狩天使の儚い物語を、ぜひ一読してみて下さい!
一貫して現実から逃げない陰鬱な空気を纏ったストーリーであるが故に、時折垣間見える真の美しさに心を揺さぶられます。
作中で取り扱われるあらゆる物事への深い造詣を窺わせる描写、時間軸を超越した緻密な構成。
そして、天使も、悪魔も、人も、皆が皆己の都合で動く中で、唯一その全てに理解を示す「異形の天使」アスコラクは非常に不可解な存在でありながら、言い知れぬ魅力を放っています。恐らく、この世界において、この物語においてこそ輝く、唯一無二の「主人公」なのではないでしょうか。
本作の見どころは、挙げていけばキリがありません。続編への期待も抑えられません。
「自分如きが何か書いて良いものか」と、レビューを書くこちらの手が震えてしまう程の超・大作です。是非ご一読を!
舞台は西欧を思わせるカーメニ。
そこに住む人々は優しく、大聖堂などの建造物は荘厳で美しい。
それなのにどこか陰鬱で悲しい雰囲気を感じさせるのは始まりの雨がもたらす印象でしょうか。
作者の確かな描写力により冒頭から作品世界に引き込まれます。
作者夷也荊氏が概要欄に書いている通り、どの章から読んでも楽しめます。
一つのエピソードが一つの作品としてしっかり体を成しているからです。
しかし<雨の日の祈り>を読んだ方には<ナチャートの悪夢>を読むことを勧めたいですし、その逆もまた然りです。
二つのエピソードが交錯することでお互いの伏線は巧みに回収されていきます。
登場人物たちの細やかな心情までも補完するほどで、読む者にカタルシスを与えてくれます。
これはミステリーの醍醐味のひとつであり、この作品はそれを見事に体現しているのではないでしょうか。
そして前述を可能にしているのは紛れもなくファンタジー特有の要素であり、ここにミステリーとの融合の素晴らしさを感じました。
大切な人のため、そして自らの運命を切り開くため、遥かなる試練と対峙する天使と人々の姿をぜひその目に。
私も第三章に位置付けられている<赤い大地>の扉を開けることを楽しみにしています。
とても濃密なファンタジック・ミステリーです。
細部の描写がリアリティに満ちていて、映画を観ているような臨場感がありました。
また、タロットの1枚1枚に寓意が込められているように、この物語も場面の1つ1つに、表面的に描かれていること以上の象徴的な意味があるように感じました。
「天使」や「悪魔」や「呪い」といったものが人々にとって身近だった時代、街には正義と公平を司る「司教庁」というものが存在し、人々に苛烈な罰を与えています。
雨の日に外出してはならないという「雨籠り」の禁を犯して、村八分になった少女。
彼女が待ち焦がれている者の名が「アスコラク」です。
少女をめぐる出来事と並行して、ナチャートという街で起こっていた大量殺人事件。
この「雨の日の祈り」と「ナチャートの悪夢」。
一見別々の2つの出来事、物語が、アスコラクを介して交錯していきます。
個人的には、各章の一話目にある短いメッセージがとても好きです。最初は何となく読んでいたのですが、最後まで読み終わって、このメッセージがそれぞれ「誰」から「誰」に向けたものなのかを考えてみたとき、この作品が一層好きになりました。
ダークな世界の中に希望の光が差し込んでるような物語です。
情報を固定化する文字が常に「真実」を語るとは限らない――。
雨。
その雨は恵の雨か。
悲しみの雨でもあったのか。
幾層にも重なり合う人の想いは胸を打つ。
人と異形との違いはあっても寄せる想いは変わらない。
叶えられた願いは、切ない救いと共に。
その深い想いに触れた時の落涙は、とてもあたたかなものだった。
三千年もの間、人々が捧げ続けた祈りは無垢である。
例えそれがすり替えられたものだったとしても――。
そして明かされた真実もまた、無垢である。
首を落とされた者たちの祈りや願いに想いを馳せた時、私は確かに光さす道を見たように思う。
厳粛かつ濃厚な美しさを持つ作品です。
拝読後すぐ、再読させて頂きました。
本当に心打たれる作品でした。
ありがとうございます!