第8話 記憶―ソウキ―

 太一は重いため息を漏らした。

「はぁ~っ!」

 ため息一つで幸せが一つ逃げると言う。

 その程度で逃げる幸せなどいらない。

 平穏をよこせ。変わらぬとも退屈な日々をよこせ。

 日々、誰かに追われ続け、殺されかける日々が幸せだと抜かす輩は無間地獄に落ちろ。

「リアル鬼ごっこだよ、これもう」

 追われるのは素人一般人。

 追いかけ、身柄を確保せんとするのは戦闘のプロ――ヴィランド海兵隊出で編成された<M.M.>エムツー西太平洋支部と来た。

 今作戦は魔女殲滅ではなく確保。それも対象は一国のお姫様である。

 同じ組織でありながら極東支部が別支部の作戦情報を流すなど、足を引っ張りたいとしか思えない。

「僕に何をさせたいんだ、あのおっさんは!」

 恨み節を口に出す権利が太一にはある。

 たかだか、一六にもならぬ子供に国際問題を押しつけるなど大人のやることではない。

「魔女と魔女殺しとか、僕にはもうそんな力なんてないのに!」

 第二次灯京大火の際、魔女となった未那と共に追っ手をかいくぐれたのは、いくつもの幸運と偶然が重なった結果だ。

 もちろん、一部だけ不可解で曖昧な部位もあるが、結果として生き抜いた。

(あの時、暴徒に撃たれた僕を助け、治療したのは誰だ?)

 最大の謎であろうと、この状況下、考えることではない。

 ただ確かなのは考察する度、脳裏に必ず浮かぶのはビール。

 関連性がまったく不明だ。

「とりあえず……問題は君をどうするか、だ」

 苛立ちを鎮めんと、額を手で抑えた太一は肩が上がるまでの深呼吸をする。

 落ち着きを取り戻すなり、女の前で男の苛立ちを見せるのはどこか格好悪い気がした。

「私は別に格好悪いとは思いませんよ?」

 男の内に踏み込んだ女は柔和な笑みで返す。

「誰だって不条理に怒るものです。男だから我慢しろというのは我慢を知らぬ輩の暴言ですよ」

 女は男の怒りに理解を示した。

 ならばこそ不快を抱くのではなく、行動で示さねばならぬのは男の性か。

「ありがとう」

 今はただ感謝を口にした。

「でもどうしましょうか?」

 お姫様は困ったように頬に手を当てれば、肩にかかった長い髪がさらりと流れ落ちる。

 その動作一つでもまるで舞台女優のようで絵となった。

「一応、政府と王国の間で、私の身の安全は保障する決まりになっているのですが」

 困った顔で取り出したのはガラパゴスと呼ぶ二つ折り携帯電話だった。

「何度も首相官邸に直接かけているのですが、繋がりません」

「大使館は? 一応、あるんでしょう?」

「ええ、ありますけど、同じく繋がりません」

「ふむ」

 太一は傷痕ある顔に手を当て黙考する。

 一番に考えられる原因は一つ。

 王女を確保せんとするのがヴィランドだからこそ、政治的な力が働いたと考えるのが妥当だ。

 次に、火ノ元政府が王女をヴィランドに売った。

 仮に売ったとして解せない部位もある。

「折角、採掘事業の交渉が実を結びつつあるこの状況で売るのは変だ。ならヴィランドが火ノ元に何らかの圧力をかけてきたと考えれば妥当か」

 バイト先で見せられた政治ドラマに汚職ネタがあった。

 ドラマのように現政権の汚職をネタに揺すったのだろう。

 公表されようならば、辞任どころか政界交代と引退すら起こり得るほどのもの。今回の作戦を黙過すれば、もみ消すことを保証しよう。

 考えすぎだが、さらに協力したお礼として敵対政党へのスキャンダルをプレゼントしよう。

 選挙権をまだ持たぬ太一だろうと、大人のいじましさを踏まえれば考えられることであった。

「けど、何で大使館には繋がらないんだろう?」

 大使館は国内でありながら国外扱いの治外法権である。

 何より彼女は第二王女でありながら王位継承権第一位。

 次期女王との連絡は常時可能にしとくはずだ。

(まあ、この際、要人につけるべき護衛をつけていないのかは、何か考え……企みあってのことなんだろうけど)

 口に出して指摘するほど野暮な太一ではなく、先行きと企みが読めぬ苦さに口元を窄めながら思考を軌道修正する。

「え、え~っと、つまりは通話を妨害しているってことかな?」

 携帯電話は無線通信機器だ。

 スマートフォンと比較してガラパゴス携帯電話は、ハッキングがし難い機種だと聞いたことがある。

 だが、世の中絶対はない。

 通話が各所に設置された中継器を介して行われる以上、届く前に遮断すれば通話を妨げることができる。

 糸電話に例えるなら、音声を伝播させる糸を掴むことで通話を妨げるようなものだ。

「ベタだけど、大使館まで直接行くしかないわけか」

 太一はスマートフォンの表示データを切り替え、マップデータを展開させる。

 セイファン王国大使館は各国の大使館同様、六本棋ろっぽんぎ方面にある。

 マップナビの案内によれば距離にしておおよそ六キロ以内、徒歩でも七〇分で行けるため現在地である真宿しんじゅくからそう遠くはなかった。

「距離の問題よりも移動の問題だな」

 太一は選択肢のなさに声を唸らせるしかない。

 首都だけあって公共交通機関での移動法はよりどりみどり。

 電車、地下鉄、バス、タクシー、レンタルサイクルと数多くある。

 タクシーを拾えば、目的地まで一本道。料金も経費として<M.M.>極東支部に請求すればいい。

 もっともヴィランド西太平洋支部は易々と通らせてくれないだろう。

 大事の前の小事だと、事故を意図的に起こして交通を容赦なく止めるかもしれない。

 下手に乗っていれば、移動する足は移動を妨げる枷となる危険があった。

「第二次灯京大火の時と状況が違うからね」

「違うと言いますと?」

「都内に人が沢山いるってこと」

 魔女出現により都内の誰もが都外へと避難した。

 ゴーストタウンと化した灯京を未那と共に逃げ続けた。

 人がいないからこそ、色々な乗り物を借りることができた。

「バイク盗んで走り出す訳にはいかない」

 第二次灯京大火の際、太一が行った行為――窃盗やら無免許運転、公務執行妨害――は魔女からの緊急避難として、無罪放免で片づけられた。

 フォークリフトで振り回した警察と形だけの事情聴取で再会した時の引きつった顔は記憶に新しい。

「警察もあてにならないと思うな」

 事情を説明し要人警護を依頼しようと、逆に上からの命令で引き渡される可能性がある。

 警察とは社会の安全や秩序を守る行政機関である。

 行政、そう行政である。

 法律により決定された内容を実現、実行する。

 だが、国が人の集まりであるように、組織もまた人の集まり。

 組織運営がピラミッド型の場合、お上の一声で容易く変わる。

 むしろ太一が懸念しているのは、警察を利用して包囲することだ。

「逆に警察だから、保護を名目で捕まえに来る可能性がある」

 対象の追跡、探索、そして確保は警察の十八番だ。

 操作の基本は足と言わんばかり培われた経験と人員により対象を逮捕する。

 警察の特番でよく見る光景だ。

「ではどうしましょうか? 私はヴィランドに留学する予定なんてありませんよ?」

 他人事のように聞こえるだけで彼女も声音では困惑している。

 いや、正確に言えば迷惑しているが正解かもしれない。

「気になるのは、どうしてヴィランドに私が留学中であるのがバレたのでしょうか?」

「内部に裏切り者がいるのが定番だと思うよ」

 内部情報が外部に漏れる十八番の定番オヤクソクは、味方が裏切ることだ。

 洋画の展開で例えれば、もっとも親しい人間が金銭やハニートラップにより裏切った。

 第二王女である彼女の立場を考えれば、誰が裏切ったか類推はできる。

「第一王女を次期王女にしたい重鎮とか?」

「あ、それはないです」

 呆気ない否定に太一は肩すかしをくらった。

 間抜けにも身体で表現してしまい、椅子から危うく落ちかける。

「えっ、えっとですね。二つ上の姉がいるのですが……」

 ル=リアの言葉は辿々しく、喉を締め付けるような口調だった。

「生まれつき身体が弱く、命をすり減らしながら日々生きている状態で……は、二十歳まで生きられないと医師から宣告されているんです」

 太一はル=リアからの告白に心臓を掴まれ愕然となる。

 周囲の人間に不幸はあったも、今なお死と隣り合わせで生きている彼女の姉にどのような言葉を返せばいいのか貧窮した。

「あ、気にしないでください。第二である私に王位継承権が回ってきたのもそんな理由ですから」

 脈々と受け継がれてきた家ほど血筋を大切にする。

 最初に生まれた者が家を継ぐなどよくある話だ。

 次に生まれた者は万が一、不幸な死に対しての予備、血を絶やさぬ為の保険でありスペア。

 長子が無事育ち、家を継承すればお役ごめんどころか下手をすれば邪魔となる

 血を利用した政略結婚に出されるか、始末されるかの道であった。

「実質的に、健全で健やかに育っている第二子が王位を継承することは確定事項です。だからこそ解せないのです」

 彼女曰く、王室では全会一致で王位継承は決定しているとのこと。

 反対派すらおらぬ故、誰が裏切ったか検討がつかずにいた。

「なら、火ノ元政府が裏切ったのか?」

 だが解せない。

 採掘事業を水泡に返すのは自殺行為。

 一年の採掘量で一〇〇年国内の電力を賄える可能性を捨てるのは利益に合わない。

「あ~もうわからん!」

 いらだつように太一は前髪をかきむしる。

「あまり髪を雑に扱いますと将来ハゲますよ?」

「その時はスキンヘッドにして誤魔化すよ」

 別の異性からハゲなる言葉が出て、太一は定番の返しをする。

「まあ私は将来の伴侶がハゲても愛し続ける自信がありますけどね。未那さんの場合だとどう返すでしょうか?」

 何故、そこで未那を引き合いに出すか。

 太一は複雑な感情が入り交じった顔をする。

「あの人のことですから、口ではハゲと罵ろうと、裏ではそれはそれでいいとか、言いそうですが」

「流石は親友だね」

 気心知れた親友同士なのだからこそ、太一は棒読みで返すしかなかった。

 何しろここで未那を引き合いに出す理由が読めなかったからだ。

 元から彼女の言動が読めないのは今に始まったことではないが。

(連れ去られるのは困る、のは分かる。けど、どこか腹の底が読めない。特殊な家系とか言っていたけど、太極の歪みなしに魔女が現れるとかあり得るのか?)

 あり得ないなんて、あり得ない。

 この言葉が全てを片づける。

 篝太一、第二次灯京大火の際、お前は嫌でも思い知ったはずだ。

 非常識は常識となり、あらゆる行いは暴走しようと善なる正義となる。

 お前を襲ったOSGを思い出せ。

 お前と魔女を殺さんとした先輩を思い出せ。

 OSGは救助用ではなく、魔女を殺す兵器である事実が、お前の今まで抱いていた決して諦めぬ行動原理を脆くも崩したのを忘れたか。

 そして、あらゆる悪しき結果は魔女のせいとして片づけられる。

 いじましくも痛ましい人間の悪性を嫌でも味わったはずだ。

(ええい、今は如何にして舞浜さん無事に大使館まで届けるか考えろ!)

 内から強く想起させんと語りかける己を太一は振り切った。

(いや、この場合……)

 振り切ったことで太一は当たり前だが肝心なことを思い出した。

「ところで、何て呼べばいいのかな?」

「といいますと?」

「いや、今まで舞浜さんと呼んでいたけど、姿が変わっているからさ」

 ところ変われば名も変わるとあるように、姿変われば呼び名も変わる。

「ああ、そうですね。ル=リアと気軽にお呼びください、太一さん」

 顔を綻ばせるル=リアに太一はどこか裏表のなさを感じた。

 時折、一物含んだ笑みを浮かべていたのだが、感じた限りこの笑みに企みは含まれていないようだ。

「では今度はこちらの番ですが」

 話を切り替えるように、ル=リアは困惑を声に宿しながら顔を近づけてきた。

 指でテーブルに置かれたスマートフォンを叩き、注視するよう合図する。

 ほのかに甘い女の色香が太一の思考を引き寄せた。

「どうしましょうか?」

 ル=リアによりスクロールされるスマートフォンに映るのは顔写真つきの名簿だった。

 顔をうつむかせる振りをしながら太一は、隊長である白人男性に目を止めた。

(ジャン・キリンガー……階級は高遠のおっさんと同じ特務大佐)

 その青い目は猛禽類――ヴィランドで国鳥として扱われるハクトウワシを連想させる。

 スクロールしていく顔写真の中に見覚えある男がいた。

(こいつ、カラオケにいた心太シャツ男!)

 読み通りの軍人だった。

 経歴を見れば、海兵隊時代に、海外を舞台に様々な特殊任務に参加したとある。

 心太シャツ男だけではない。

 今回、王女確保の実働部隊は誰も彼もそのような熟練の猛者ばかりだ。

 何より一番の問題は――

「本当にどうするか、だな」

 スクロールを続けたスマートフォンには現地協力員の顔写真が写る。

 特殊部隊出なのだ。

 海外で作戦を展開する以上、現地住民を協力者に引き入れるのは別に珍しくはなかった。

(戦争映画でもターゲットと敵対する現地住民を味方にして、地形とか情報を入手していたよな)

 無論、相手が協力的で故の穏便な方法の話。

 時には真逆に尋問、拷問にて情報を入手していたシーンを映画で見た覚えもあった。

「囲まれてる」

「ええ、囲まれていますね」

 情報確認と考察に時間を割きすぎた。

 気づけば太一とル=リアの周囲には、現地協力員が取り囲んでいる。

 誰も彼も私服姿であり、端から家族連れとしか見えない。

 何より恐ろしいのは、異変の一欠けらも抱かせることなく、取り囲んでいる点だ。

(そういえば聞いたことあるな。その道のプロはいることさえ気づかせないと)

 事前情報がなければ囲まれていたとさえ気づかなかっただろう。

「大丈夫です。手はあります」

 太一の手を柔らかな手が握りしめる。

 その手に恐怖による震えはなく、その瞳には状況に屈せぬ力強さがあった。

「指輪を持ってますか?」

「指輪? ああ、これか」

 思い出すように太一はズボンのポケットから鈍色の指輪を取り出した。

 第二次灯京大火で太極の歪みを修復した直後に空から落ちてきた謎の指輪。

 口端を笑みで歪めるル=リアから、ただの指輪ではないと察知する。

「ではそれをどの指でもいいので填めてください」

 言われた通り、咄嗟に左薬指につけていた。

 指輪とは左薬指につけるものだ、とのイメージが太一の中にあったからだ。

「ほんの少し力をお貸しします。その力を使ってここから離脱しましょう」

 力の意味を聞くほど太一は無知でも野暮でもない。

 スマートフォンをポケットに入れながら頷いた。

「タイミングは任せます。一、二の三で走り出しましょう」

 周囲の空気が緊張で張りつめる。

 取り囲んだ協力員たちも対象の動きに勘付いたようだ。

「一、二の――……」

「三っ!」

 太一は立ち上がると同時に座っていた椅子を明後日の方向に蹴り飛ばした。

 同時、一斉に立ち上がった協力員たちがル=リアに迫る。

 そして、世界は白黒に染まる。

「こ、これはっ!」

 世界から色彩が消え、黒と白に染め上がる。

 あらゆる動作は急激なまでに緩慢となり、蹴り飛ばした椅子が宙で停止している。

 太一はこの現象を経験している。

 第二次灯京大火の際、ショッピングモールでOSGに追われていた際、経験した現象だった。

「ええい、考えるのは後だ!」

 あらゆる動作が緩慢になろうと思考は逆に澄み渡っている。

 ならばこそ、宙で停止する椅子にさらなる蹴りを入れ、一番近くまで迫る協力員の顔面に向きを変える。

 次いでテーブルを背後から迫る協力員に投げ入れた。

 このテーブルもまた例に漏れず宙で停止する。

「きゃっ!」

 最後の仕上げとして太一はル=リアを抱き抱える。

 抱き上げた瞬間、未那と変わらぬと直感。

 ただ異なるのは女の色香だった。

「一気に走り抜けるよ!」

「はい、しっかり掴まっていますね!」

 ル=リアは嬉々とした表情で首に抱きついた。

 全方位から波のように迫る協力員をかき分けて走る。

 緩慢な動きに映るお陰でどのルートを走り抜ければ良いか、正解を把握できる。

「そのまま駅のほうに行く!」

 走り抜けた太一は次なる目的地を告げる。

 真宿駅を選んだのは、その複雑な構造故、別名ダンジョンと呼ばれているからだ。

 白と黒の世界をル=リア抱えて走る太一は、真上から迫るシャッターを見た。

 ご丁寧に、フードコート全区画を閉じる防火シャッターが降ろされようとしている。

 袋の鼠に誘うシャッターが完全に閉鎖される時にはもう、駅に続く地下通路へと太一は駆け込んでいた。

(映画だと閉まる寸前のシャッターに飛び込んでギリギリ脱出するのがお約束だけど、これは映画じゃなくて現実なんだ)

 世界が緩慢に動き、太一の思考はクリアとなる。

 原理は不明だが、原因は判明した。

 恐らくはル=リアの魔女の力だ。

 だが解せない面もあった

(何で男の僕が魔女の力を無効化せずに使――ぐっ!)

 地下通路を走り抜けて駅へとたどり着けば、世界はカラフルな色彩を取り戻す。

 緩慢なモノクロ世界は終わり、太一の澄み渡る思考は急激に澱み出した。

「ぐっ、ぐううっ!」

 力強く意識を保つ太一はどうにか抱き抱えていたル=リアを降ろす。

 熱病に晒されたかのように思考は混濁に乱れ、意識を暗き底へと引きずり込まんとする。

「な、なん、だ、これっ!」

 壁に身体を預ける太一は意識を保とうとするも引きずりこむ力のほうが強い。

「起こるべくして起こった当然の反動ですね」

 ル=リアの口調は柔らかくとも言い知れぬ喜びが宿っていた。

 その声を太一の耳朶が拾おうと思考は認識しない。

「陰と陽はバランスが肝心かなめ。陰たる力を陽の人間が使えば、体内にある陰の気を消費しバランスを崩すのは必然の結果です」

 例え、いがみあう感情を持つ隣り合う男だとしても、と囁いたように聞こえた。

「でも安心してください。大丈夫ですから……って私の声は届いてませんか。これはこれで好都合、うふふ」

 焦点定まらぬ太一の目がかろうじて捉えたのは、口端を企みで歪めて笑うル=リアだった。

「ここは視た未来の通りですね」

 彼女の顔が大写し――否、近づけていた。

「あなたが未那さんに陽の気を送り込んで正気を取り戻させたように、私が陰の気を送り込めば……」

 太一の意識が途切れる寸前、温かな何かが唇を通じて体内に流れ込んだ。


「うふふ、あなたにとってはセカンドですけど、私にとってはファーストなんですよ?」

 太一から唇を離したル=リアは、口元に光る透明な糸を舌で舐めとり、妖艶に微笑んだ。

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