開戦まで 〈あと二日 夜〉

 夜、見回りをしていると真神が公園のベンチに座り夜空を見上げていた。

その様子は何かを慈しむ様な哀愁に満ちていた。

静かに近づいて横に立ち、真神の様子を伺う。

こちらに気づいているのか分からないが、酔ったふわふわした声で独り言のように話を始めた。

「…本当に俺なんかが土地神やってて良いのかって、あの事件以来ずっと思ってる。町民や信仰してくれてる人の役に立っているだろうか、町を守れているか、以前の付喪神の事も、結界のこともそうだ。唯一好いていた女さえ守れなかった……」

真神の感情はさっきとは違い怒りと悲しみが混在しているようだった。

「…なぁ、知ってるか。北極星の代替わりの話。

人の世も、星も、この世に在るもの全て移りゆく。逆を言えば変わらないものなんてないんだ。俺が消えれば次が生まれる。でも、あの社も消えかけだからな…次が生まれること自体難しいかもしれない。

後の世のやつには申し訳ないが、それよりも

もっと大切な、それこそ妖だけでなく、人の世にも関わるかもしれないことをやるんだ。

不知火は、相討ちしてでも葬る。

俺が消えても悲しむなよ。優秀なやつが居るんだから。怠惰オレは要らないのさ。」

「お前を見殺しにはしない」そう言葉を返そうとしたその時、真神の表情が今までに見たこともないほど柔らかかった。

「……思い返せば楽しいこともあった。町民ともよく酒を酌み交わした。一生経験できないだろうと思っていた感情も知れた。

今こうして、たわいもない話をする奴もいる。悪いことだけではなかったよ」

何か言葉を掛けないと真神がひとりでに消えてしまいそうな気がして漆は口を開いた。

「……随分長い独り言だな。話したいことはそれで終いか?もう帰れ。今日は冷える。

お前を運ぶのは骨が折れるからな」

こんな時でも口から出るのは皮肉だった。

真神はベンチから立ち上がり伸びをする。

「ふふん 何気に優しいじゃないか。

そうだな、もう帰るさ。狐の野郎に見つかるのも嫌だし。じゃあな」

「…真神。俺はお前を碌でもないやつだと思っているが、悪いやつだとは思わないぞ。

そう悲観するな。お前は強いんだろう?

前を向け。今はそれしかない。」

 真神は振り返らず手をひらひらと振り公園を去った。

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