設定資料集/2:登場銃器紹介(拳銃、機関拳銃編)

/拳銃


・H&K USPコンパクト

 ドイツの名門ヘッケラー・アンド・コック社製が1993年に送り出した自動拳銃の傑作、USPを携行しやすいコンパクト・サイズにまで縮小したモノ。USPはユニヴァーサル・セルフローディング・ピストルの頭文字を取ったネーミングで、和訳するなら汎用自動拳銃。後の傑作HK45などのベースにもなった優秀な拳銃だ。

 ショートリコイルの作動方式、SA/DA両方可能な撃鉄突きのコンペンショナル・ダブルアクション・トリガーなどの採用と、グロック同様に当時としては先進的なポリマー樹脂製フレームを用いている拳銃にしては保守的な造り。だがフレーム前方、ダスト・カヴァー部に設けられたアタッチメント用の独自規格のマウントレールは革新的だった。現在ではこのレールにピカティニー規格20mmレールを噛ませるアタプタも存在。

 また、サム・セイフティのような位置に据えられたコントロール・レヴァーは通常のセイフティ/デコッキング仕様の他にセイフティのみ、デコッキングのみと多数の仕様が要望に応じて入れ替えられる。作中に登場した物に関しては、一般的なセイフティ/デコッキング兼用のモノだ。


 作中、ハリー・ムラサメの愛銃としてコンパクト・モデルが9mmパラベラム弾(十五発弾倉)として登場。数々の窮地を彼と共に潜り抜けた末、教会での戦いで喪失する。





・スターム・ルガー SR9

 米国スターム・ルガー社が2007年に売り出した自動拳銃。グロック・シリーズのパテント(特許)失効後で、仕組みはグロックそのままと言っても差し支えはない。同社としては始めて撃鉄を持たないハンマーレス、ストライカー撃発方式を採用した拳銃でもあり、また安価で高性能が売りのスターム・ルガー社の製品の為か、グロックよりも求めやすい価格で売り出されている。

 とはいえ中身グロックそのままでガワだけ変えたというワケでもなく、スターム・ルガー社独自の意欲的な追加機構が加えられている。その一つがフレーム部分に親指で操作する、アンビ(左右両利き対応)仕様のサム・セイフティを備えていることだ。引鉄部分に申し訳程度にトリガー・セイフティだけがあるグロックと異なり、射手がセイフティの解除を任意で行えるようになっている。

 他にはスライド状の大型のローデッド・チャンバー・インジケーター(薬室内に弾が装填されているかを知らせる仕組み)が、弾倉未装填時の撃発を防ぐマガズィン・セイフティなども設けられているなど、使いやすさと安全の面の両方で強化が図られている。(尤も、やたらに規制の厳しいカリフォルニア州の既定を満たす為、という事情もあるが)

 全体的には悪くない拳銃ではあるが、スターム・ルガー社の製品に共通して日本国内での知名度は今ひとつ。安かろう悪かろうではなく、安いなりに質の良い拳銃ではある。


 作中では第二条、美代学園での"スタビリティ"襲撃事件時に和葉の救出へ向かったハリー・ムラサメが、倒した敵の傭兵から奪った9mmパラベラム弾仕様の物を二挺拳銃のスタイルで用いた。





・シグ・ザウエル P226-E2

 言わずと知れた名銃。'70年代に登場した傑作拳銃・P220の弾倉をダブルカーラム(複列配置)化するなどして弾数を増やすなどを図った性能向上モデル。本家P220との際は弾倉の配列方式、及び.45ACP仕様が無いことなどがある。余談だが、P226登場以後のP220は9mmパラベラム弾モデルを廃止、.45ACP仕様を主力に置いている。

 手動操作式のセイフティを持たないなど多少好みが分かれるところはあるが、精度が高く、頑丈で信頼の置ける世界最高の拳銃の一つだ。とはいえSIG製品に共通するやたらと高い価格設定のせいで、一部の軍や警察などの特殊部隊を除き、公的機関への大々的な採用はあまり進まなかった。(事実'80年代の米軍拳銃トライアルではベレッタ・モデル92Fに敗退しているが、こちらは高すぎる価格の他、手動セイフティの存在の有無という際もあったが故とされている)

 だが高いなりに性能はピカイチで、私費でこれを購入し用いる者も多い。


 作中では2010年に登場したエンハンスド・エルゴノミクス(E2)グリップとショートストローク・トリガーを搭載したE2モデルが、ハリー・ムラサメの回想内で登場。十九歳と若かりし彼が師であるクララ・ムラサメとの仕事の際、これを携行していた。





・ベレッタ モデル92FS

 こちらも言わずと知れた名銃。'70年代登場、'80年代には熾烈なトライアルを勝ち抜き米軍の正式ピストルの座を得たイタリア生まれの傑作拳銃だ。また作中に登場するモデル92FSは、米軍に採用されたモデル92Fが採用直後、割れたスライドが後方に飛び出した破断事故を起こした際、それに対応する改良を施された現行モデルになる。

 1980年代から現代に至るまで、『ダイ・ハード』や『男たちの挽歌』、他数々の映画に於いて名ヒーローたちの獲物としてスクリーンを飾ってきた92FSに関し、今更語るべきことは少ない。今までに散々が語り尽くされ、そして幾多ものシューターたちが撃ち、好んできた92FSに関して今更語るべきなんてこと、もうありはしないだろう。

 強いて言うなれば、近々に米陸軍で開催されたMHS(モジュラー・ハンドガン・システム)計画に於いて、92FS(米軍採用名:M9ピストル)の代替としてシグ・ザウエル社のP320がM17/M18として採用されたことがある。現行配備されているM9ピストルは、徐々にこの新しいM17へと置き換わっていくことになる。三十年あまりに及んだ名銃ベレッタ・M9ピストルの時代が終わろうとしているのだ……。


 また作中に於いては第四条、教会前へハリーのインプレッサが滑り込んだ際、その後部座席の隠しトランクからSIG-516自動ライフルなどとともに、モデル92FSが二挺持ち出されている。鳩の舞う教会内での激闘に於いて、ハリーは92FSをチョウ・ユンファばりの二挺拳銃スタイルでウォードッグ、そしてクララ・ムラサメといった強敵たちと激闘を繰り広げた。





・トーラス レイジングブル

 ベレッタ・モデル92のライセンス生産品『PT92』などで知られるブラジル・トーラス(タウラス、タウルス)社の開発した大口径リヴォルヴァー(回転式)拳銃。比較的安価なこともあり、ハンター向けに一定の需要を得ている。

 往年の名銃コルト・パイソンを彷彿とさせるような銃身上のベンチレイテッド・リブや、銃身下に大きく伸びた長いラグ、そして側面にデカデカと彫られた"RAGING BULL"の刻印がパッと見の印象を強める。銃口の手前にコンペンセイター代わりの抜け穴が八つほど備えられていることもあり、撃ち味は見た目ほど悪くない。

 規格外のパワーを持つ大口径マグナム弾の発射時の衝撃に耐えられるよう、六連発のシリンダー弾倉は通常のリヴォルヴァーと異なり、S&Wの同クラスリヴォルヴァー・M500と同じように前後二つのラッチで固定されている。再装填時にはこれを両方とも押さねばならないので、この辺りの操作性はあまり良くない。

 とはいえ、下は.41マグナム、上は.454カスールから世界最強の.500S&W弾まで撃ち放てるこの銃の需要は比較的大きいようだ。


 作中ではウォードッグ(ジェフリー・ウェン)の愛銃として、6インチ銃身.44マグナム弾仕様が二挺拳銃として登場。彼の前に立ちはだかるハリー・ムラサメを大いに苦しめた。





・トンプソン/センター アンコール

 狩猟用の中折れ式シングルショット(単発)・ピストル。アンコールは1996年に登場した同社製品『コンテンダー』の強化モデルで、サイズも一回り大きく、.45-70や.223レミントンが限界だった原型銃よりも強力なライフル弾を扱えるようにしたモデルだ。

 ちなみに勘違いしやすいとこれおではあるが、開発元のトンプソン/センター・アームズ社はサブ・マシーンガンの名銃トンプソン(M1928、或いはM1)とは関係ない。また現在の同社はS&Wに買収されている為、同社ハンティング部門の一部になっている。

 またこれは余談も余談だが、本銃が作中登場した際にハリーと和葉の間で交わされていた会話、『ハード・ターゲット(1993年、米国)』と『ハード・ボイルド/新・男たちの挽歌(1992年、香港)』で出てきた銃だという一連の会話があったが、あちらに登場しているのはどちらも原型のコンテンダーであり、アンコールではない。どちらも香港の名監督ジョン・ウーの作品である辺り、よほどコンテンダーが気に入っていたのか。


 作中ではウォードッグ(ジェフリー・ウェン)のリーサル・ウェポンとして.30-06スプリングフィールド弾が登場。破壊的な威力で以てハリーを二度苦しめた。





・ベレッタ モデル70"ピューマ"

 今日ではモデル92FSなどで知られるイタリアのベレッタ社が'50年代末期から'80年代半ばまで製造していた旧式の小型拳銃。銃身が露出したオープントップ式のスライドなど、デザインはモデル1934などと似通った伝統的なベレッタ自動拳銃のスタイル。親指で操作しやすい位置のセイフティなど操作性に優れるものの、弾倉を吐き出す為のマガズィン・リリース・ボタンがグリップの左下にあるなど、妙なところも多い。今ではレアでマイナーな拳銃なものの、作者の趣味で(半ば強引に)登場。

 ちなみに余談だが、本銃は日本きってのハード・ボイルド作家、故・大藪春彦氏の作品にも多々登場する。『ベレッタ・ピューマ』の呼び名で印象深い。


 作中ではクララ・ムラサメの愛銃としてモデル70、9mmショート(9mmクルツ、.380ACP)弾仕様が登場。古く、弾も威力に乏しい物だが、しかしハリーをして「クララに持たせれば.50口径のデザート・イーグルより厄介」と言わしめた。その言葉通り、教会での戦いでハリーを苦しめることになる。






・STI 2011タクティカルDS

 登場から百年が経つアメリカの象徴、名銃コルト・M1911――日本では『コルト・ガヴァメント』の名で親しまれている名銃のカスタムメイド・モデルが、このSTI-2011だ。

 『2011』の名は百年後の1911という意図を込めた名で、ダブル・カーラムのハイキャパシティ弾倉などを採用した先進的な設計の本銃は、正にM1911の正当進化形に相応しい。また『タクティカル』シリーズは文字通り法執行機関での運用を主眼に睨んだ仕様のカスタムで、実際米陸軍デルタフォースで少数・超短期間ながら使用されていた実績も持つ。

 STI社自体は数ある1911クローンの中でも特に質の良いカスタム・メーカーとして知られており、競技用レース・ガンなどの用途でもかなりの需要と人気がある。だが価格面では一挺数千ドル(1ドル100円の日本円換算で、大体ウン十万台)とべらぼうに高く、おいそれと手が出る代物でもない。正に最高の1911の一つといって過言ではないのだが、近い精度でより安価な工場大量生産が出来るキンバー社製などに押されている面も。とはいえ実績と人気は揺るぎなく、STI-2011シリーズ、及びSTI-1911シリーズが最高の1911であることには変わりないだろう。


 作中では教会戦の終盤、ハリーの窮地を救うべく教会内にハマーH1で突入してきたミリィ・レイスが、援護のために2011タクティカルDS、5.0インチ丈スライドのモデルを使用。






・グロック34(TTIコンバットマスター・パッケージ)

 軽量にして頑丈なポリマー樹脂をフレームなどの各部に据えた先進的な設計を引っさげ登場し、1980年代に拳銃界を震撼させたオーストリアの衝撃・グロック17。そのロング・スライド・モデルであるグロック17Lを、射撃競技の競技規定に適合させる為の更なるマイナーチェンジを施した品が、コンペティショナル・モデルであるこのグロック34だ。

 中でも作中で登場した物は、カスタム・グロックの名門SAI(サイレント・アームズ・インターナショナル)の勢いに追いつかんとするTTI(ターラン・タクティカル・イノヴェーションズ)社製のスペシャル・カスタマイズ品だ。放熱用の肉抜きが為されたTTI刻印入りのカスタム・スライドに金色のコーティングが表面に施された強化銃身、手に食い込む銃把部分の強烈なステッピング加工に視認しやすい大型のファイバー入り固定照準器、弾倉の脱着がしやすい大型のマグウェルが搭載されているなど、カスタム内容は此処では書ききれないほど多岐に渡る。

 とまあ色々と書き連ねてきたが、映画好きな諸氏には近々に上映されたキアヌ・リーブス主演の映画『ジョン・ウィック:チャプター2』に出てきたアレ、と言えば分かりやすいだろう。本銃と"ほぼ"同仕様のTTIカスタム品のグロック34がスクリーンに登場している。


 作中ではミリィ・レイスからユーリ・ヴァレンタイン邸宅襲撃の武器としてハリーに渡される。曰くミリィ自身の趣味で集めたコレクションらしく、必ず返すように冗談交じりでハリーに告げていた。ハリーはこのグロック34だけは喪失せずに戦い抜くが、その後ミリィ・レイスに返却されたのかは不明。恐らくは返されたと思われるのだが……。






・グロック26

 同じくグロック17のサブ・コンパクト仕様。かなり小型で携行しやすく、その上ダブル・カーラム弾倉の為に9mmパラベラム弾が十発、或いは十二発装填出来るとファイア・パワーも悪くない。また同口径に限っては他のグロック用弾倉も流用出来る為、メイン用グロックの予備として携行するのも理に適っている。


 作中では前述のグロック34と同様、ミリィ・レイスからハリーに渡される。バックアップ用で、本銃に関してはTTIカスタムではなく純正仕様だった。邸宅での戦いに於いて、ウォードッグ戦の果てに喪失。






・シグ・ザウエル SP2022

 同社初のポリマー樹脂を採用した拳銃で、1990年代末期に登場。初期のSP2340(.357SIG、.40S&W弾モデル)とヨーロッパ向けSP2009(9mmパラベラム弾モデル)の頃は『SigPro(シグプロ)』の名で呼ばれていたが、2004年により先進的なピカティニー規格20mmレールをフレームのダスト・カヴァー下部に搭載し、各種改良を施した本銃SP2022が登場すると共に、この名前も消えていった。

 同じようなカテゴリの同社P226の最大の欠点だった凄まじい価格の高さを克服した安価な銃で、その割に精度も良い。スタイルもよく似ていて、撃鉄を安全に戻すデコッキング・レヴァーも継承しているものの、P226とよく似たルックスと異なり内部構造はかなり異なっている。


 作中ではユーリ・ヴァレンタインの物として、9mmパラベラム弾仕様のSP2022が空港での決戦時に登場。和葉に銃口を突き付けハリーを脅すが、しかし管制塔に陣取った冴子の豊和M1500狙撃ライフルからの狙撃により破壊され、またヴァレンタインも右手の指数本を失う結果に終わってしまった。発砲は無し。






・S&W M&Pシールド

 2005年に老舗S&W(スミス・アンド・ウェッソン)社から発表され、急速な普及を見せた最新鋭のポリマーフレーム拳銃。それまでポリマー樹脂の拳銃としては不動の位置を築いていたグロックの牙城を脅かしかねないほどの勢いで普及するM&Pの、その縮小版であるサブ・コンパクト仕様。それが本銃M&Pシールドだ。

『M&P』という名は旧来の同社製リヴォルヴァーM&P(ミリタリー・アンド・ポリス)から受け継いでいて、しかもS&Wはこの名前を本銃のシリーズどころかリヴォルヴァー拳銃、果てはAR-15コピーの自動ライフル(M&P15)にまで使っている為に凄まじくややこしい。だがまあ、国内に限っていえば『M&P』というと専らこの自動拳銃シリーズのことを指すと思っても大した問題ではないだろう。

 M&Pシールドは前述の通りM&Pのサブ・コンパクト仕様で、シングルカーラム弾倉とスリムな薄い造りのお陰で携行はかなり楽。また、近頃になって売り出された最新アップデート版『M&P2.0』にも同じシールド仕様が存在する。


 作中ではエピローグ、ハリーが教会での戦いで喪失したUSPコンパクトの代わりとして本銃の2.0モデル、9mmパラベラム弾仕様を調達し携行している。シングルカーラム弾倉で装填数は9mmパラベラム弾が八発と、それまでのUSPコンパクトから少なくはなったものの、携行のしやすさからM&P2.0シールドを選んだようだ。






/機関拳銃(マシーン・ピストル)


・グロック18C

 名銃グロック17をベースに、オーストリアの対テロ部隊『COBRA(コブラ)』の要請でフルオート(連発)機構を搭載したグロック18の、問題改善と更なる改良を施されたマシーン・ピストル(機関拳銃)、それがグロック18Cだ。

 18Cの"C"はコンペンセイターの意で、ぱっくりと開いたスライドの上から露出する銃身の上部に穿った穴をコンペンセイターとしている。またセミ/フル切り替えのセレクタはベレッタ・92FSのようなスライド側面の位置に取り付けてある。

 公的機関以外への販売はされていない代物ではあるが、簡単なパーツ交換でグロック17のフルオート化改造が可能な現状では大して影響はない。知らぬ間にカタログから消えていることもあって、生産終了したのではないかとまことしやかに噂されている。


 作中ではジェーン・ブラントの愛銃として、レールにレーザー・サイトを取り付けた本銃が二挺拳銃で登場。初期は携行を考え十七連弾倉であったが、最終的にハリーと戦う際には途中で三三連のロング・マガズィンへと切り替えていた。

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