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 ――――しかし、撃ったのはハリーでも、ましてヴァレンタインでもなかった。

「ぐわぁぁぁっ!?!?!」

 拍子抜けした顔のハリーの目の前で、ヴァレンタインが右手を押さえながら蹲る。血走った眼で、脂汗を垂らしながら、凄まじい激痛に耐えるかのように。

「……えっ?」

 そんな風にヴァレンタインが蹲った拍子に拘束から解放された和葉が、困惑した顔で足元に蹲るヴァレンタインを見下ろす。まるで状況が理解出来ず、理解が追いつかず。ただ、何故か濡れた感触がした右の頬を手の甲でそっと拭ってみると、

「ひっ……!?」

 頬を拭った手の甲には、何故か赤い血がべっとりとこびり付いていた。

 勿論、自分のものではない。怖がるような小さな悲鳴を上げて和葉が再びヴァレンタインの方を見下ろせば、そこで漸く和葉は気付いた。蹲るヴァレンタインが抑える右手の中へ既に拳銃は無く、そして恐ろしいぐらいの血にまみれていることに。今も尚、それは足元へと滴り落ちて地面を汚していることに……。

 ヴァレンタインの持っていたシグ・ザウエルSP2022の自動拳銃は、まるで横から車に撥ねられたみたいに遙か遠くへと吹き飛んでいる。スライドとフレームの間を抉られるような風穴を開け、バラバラに砕けながら。そしてヴァレンタインの右手もまた、数本の指が根元から千切れ飛んでいた。

「狙撃……?」

 そんなヴァレンタインの姿と吹き飛んでバラバラになった拳銃を見れば、ハリーが真っ先に疑ったのはそれだった。そして脇目にチラリと見ると、フッと微かに笑みを浮かべ、構えていたグロック34を腕ごと下ろす。

「…………美味しいトコだけ持って行きやがって、冴子の奴」

 呆れたように笑いながら肩を竦めるハリーの、その遙か向こう側。まるで彼を見守るかのように、管制塔にキラリと光る微かな反射光が見下ろしていた。

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