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 園崎和葉が闇に墜ちていた意識を再び覚醒させ、重く閉じていた瞼を開くと。そこに見えたのは、まるで見慣れない豪華絢爛な一室と、そして数人の男女の姿だった。

「此処、は……?」

 朦朧とした頭の中、瞳を白黒させながら和葉は辺りを見渡す。どうやら椅子か何かに後ろ手で縛られているらしい自分の置かれているこの場所は、装飾といい調度品といい、本当に豪華絢爛な雰囲気漂う白を基調とした一室で。例えるならば、高級ホテル最上階のスウィート・ルームといった感じだ。一泊ウン十万円とかする、あんな感じの。

 そして、目の前には何人かの男女の姿がある。その内二人ほどは、何だか見覚えがあるようなないような、そんな具合に記憶のある感じだった。だが後の二人に関してはまるで見覚えがない感じの、しかも明らかな外国人だった。

「お目覚めかな? 麗しのお姫様」

 すると、その見慣れない外国人――その男の方、白を基調としたイタリアン・スタイルのスーツを纏った彫りの深い顔の男が近づいてきて、和葉のすぐ目の前に跪きながら、スッと片手で彼女の顎に触れながらでそんなことを言い放った。ロシア系の血が混じったような顔からは想像も出来ないほど、流暢な日本語だった。

「……貴方は?」

 此処に来て、漸く自分がどうなったのか。教会で連れ去られた一件を思い出した和葉は、敵意丸出しの視線を向けながらその男に問う。

「おっと、初対面のレディに名乗らないのは失礼だったね」

 すると男はニッコリと柔らかく微笑みながら、至極物腰柔らかな態度でそんな言葉を返してきた。そんな男の肩に手を回し、もう一人の見慣れない顔の、長いストレートの金髪をした女の方が男に纏わり付く。

「私はユーリ・ヴァレンタイン。そして、こっちはジェーン・ブラント。見知りおいてくれると嬉しいかな、ミス・ソノザキ」

 ユーリ・ヴァレンタインと名乗ったその男は纏わり付いていた金髪の白人女――ジェーン・ブラントに何か小声で耳打ちをすると、彼女を離れさせ。そうして和葉の前でスッと立ち上がってみせる。

「……なーるほどね。要は私、悪者のアジトにまんまと捕まっちゃったってワケね」

「悪者、悪者ね……」

 見上げる和葉が皮肉っぽく言ってやると、何がおかしかったのかヴァレンタインはくっくっくっ、と笑い始めた。

「確かに、我々"スタビリティ"は世界にとっての悪者だ。悔しいけれど、それは認めざるを得ない事実かもだ」

 ひとしきり笑い終えた後で、ヴァレンタインは律儀にも言葉を返してくる。

「でしょうね。貴方の顔からして、どう見たって思い切り悪者ですもの」

「そうかな?」

「ええ、そうよ」気丈に振る舞いながら、敢えて和葉は頷いてやる。「ペルシャ猫でも撫でてるのがお似合いだわ。ジェームズ・ボンドにでも撃たれて死にそうな顔してるし、貴方」

「奇遇だね、私も007は好きだよ。でも残念ながら、ブロフェルドは死なないんだ。それにミス・ソノザキ、君の父親がしていたことの方が、よほどスペクターの悪行じみたことじゃないかな?」

「なんですって? パパが……?」

 困惑する和葉の顔を上から見下ろしつつ、ヴァレンタインはニヤニヤと笑みを浮かべながら「ああ」と頷いてみせる。

「折角此処まで来て貰ったんだ、手土産に教えてあげようじゃあないか。君に"ワルキューレ計画"の、君の両親が深く関わっていた、世にもおぞましい計画の真実をね」

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