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「っ!?」
「オオッ!?」
ハリーがベネリM4の銃口から強烈なスラッグ弾をブッ放すのと、同じく強力な.44マグナム弾をウォードッグがトーラス・レイジングブルから撃ち放つのは、一瞬も違わぬ完璧な同じタイミングだった。
放たれた12ゲージ径のスラッグ弾と.44マグナム弾頭とが空中で軌跡を交錯させ合い、そして互いの標的に向けて超音速で空気を切り裂き飛翔する。
銃声に驚いた鳩が慌ただしく飛び回る中――――二人の撃ち放った弾丸はそれぞれ、互いの獲物を破壊していた。
「くっ……!?」
ハリーの方は、ウォードッグの撃ち放った.44マグナム弾に斜めから機関部を抉られ、そのまま貫通し弾頭は吹き飛んだベネリM4ごと彼方へと吹き飛んでいく。
「畜生……!」
そして、ウォードッグのほうもまた同様で。奴の場合は銃身を横方向から12ゲージのスラッグ弾に撃ち抜かれ、使いものにならなくなったレイジングブルがハリーのベネリM4と同じく、そのまま手の中を滑り彼方へと吹き飛んでいく。
「ヘッ――――!」
だが、獲物を失ったリカバリーに動くのは、ウォードッグの方がハリーより圧倒的に素早かった。
ウォードッグは自分のレイジングブルが彼方へと吹き飛ばされていくと、衝撃で右手が痺れるのにも構わず、すぐに後ろ腰へと手を伸ばす。そこから引っ張り出してきたのは、拳銃としてはあまりにも大柄な、そして実戦に使うにはあまりにも酔狂すぎる代物だった。
トンプソン・アンコール――――。
正確に言うならば、トンプソン/センター社製。同社のコンテンダーの強化バージョンで、ライフル型などがある中のピストル・モデルだ。古式めいた上下二連式ショットガンのように銃身が根元から折れる中折れ式で、装填出来る弾は薬室にたった一発だけ……。
あまりにも、酔狂が過ぎる代物だ。しかしそれを、ウォードッグは此処まで温存した上で満を持して取り出してきた。この意味が示すところを、ハリーはトンプソン・アンコールを一目見るなり察してしまう。
(アレが、奴のリーサル・ウェポンってことか……!)
それを察すれば、ハリーは腰のUSPコンパクトを抜く間も無く全力疾走でその場を逃げ出した。
「――――喰らいなァッ!!」
瞬間、雄叫びと物凄い爆音と共にトンプソン・アンコールが火を噴く。右腕一本で構えていたウォードッグの強靱な腕が、しかし強烈な反動に耐えきれず大きく上方に跳ね上がる。
撃ち出されたのは、.30-06スプリングフィールド弾。先程インプレッサの防弾装甲を貫通した7.62mm×51NATOの原型となった弾で、アレよりも大柄で威力、貫通力ともに桁違いな代物だ。
ウォードッグのトンプソン・アンコールから撃ち放たれた.30-06スプリングフィールド弾は凄まじい速度で飛翔し、一瞬前までハリーが隠れていたベンチを砕き、そして文字通りに吹き飛ばしてしまった。バラバラの破片と鳴ってベンチが派手に吹っ飛び、そして床を跳ねる。
「やべえ、やべえぜ流石に……!」
駆け出したハリーは焦燥に駆られながら、咄嗟の遮蔽物が祭壇しかないと察し、その上を転がるようにして仕方なく向こう側に飛び込む。
「きゃっ!?」
ともすれば、後ろに隠れていた和葉が突然転がり込んできたハリーに驚き、小さな悲鳴を上げる。
「ちょっ、大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃない!」
肩で息をしながら、右腰のUSPコンパクトを抜くハリー。あの超威力なトンプソン・アンコールを前にしては、こんなものは豆鉄砲にしか見えず、今だけはひどく頼りなく思えてしまう。
「野郎、『ハード・ターゲット』に出てきたみてえな獲物使ってやがる」
「ヴァン=ダムの?」
「ああそうだ」と、焦りながらハリーが頷く。
「君に分かりやすく言えば、『ハード・ボイルド』の病院地下で隻眼が使ってたアレだ」
「……うん、それで大体分かった」
「だろ?」
口先でこそそんな冗談を言い合う二人だが、和葉はともかくハリーの方は既に余裕なんて一切持ち合わせてはいなかった。
「ハリー、勝てるの?」
「分からん」不安げな瞳で見上げてくる和葉に、しかしハリーは正直に答えてやる。
「が、何とかしてみせる」
と、ハリーが続けてそう言った瞬間だった――――。祭壇の傍にある聖母マリア像が、ウォードッグの撃ち放った.30-06ライフル弾の直撃を喰らい、爆発するように砕け散ったのは。
「うおっ!?」
「きゃっ!?」
それに驚くハリーと和葉。細かい破片が二人の頭上から降り注ぐ中、遠くから聞こえるのはウォードッグの不敵な笑い声だった。
「へっへっへ……」
ニコニコと、しかし犬歯剥き出しな獰猛すぎる闘犬みたいな笑みを浮かべながら、ウォードッグは仁王立ちしたままでトンプソン・アンコールの銃身を折り。空薬莢を放り捨てると、左手で指の間に挟みまくった次弾の内一発を薬室に装填。右手のスナップを利かせながら銃身を元に戻すと、撃鉄を起こしまたブッ放した。
「野郎、遊んでやがる……!」
周りの十字架やら、ステンドグラスやらが.30-06スプリングフィールド弾の直撃を受けて砕けていく中、ハリーは奴が意図的に狙いを外していると悟っていた。恐怖を煽る為に、わざとこんな舌舐めずりするみたいな行為に及んでいると。
「嘗めやがって……!」
そうして、いい加減わき上がる怒りが限界を迎えそうになったハリーが、奴に応戦しようと飛び出そうとした、その直後だった。バァンと音がして、教会の側面にあった扉が開いたのは。
「な、何事です!?」
と、現れたのはこの教会の神父だった。修道服に身を包み、首からは十字架を提げる、四十代ぐらいの比較的若い神父が派手な銃撃戦の中、唐突に現れたのだ。
「あァ……?」
そうすれば、ウォードッグは折角の楽しみに水を差されたような気分になり。トンプソン・アンコールの再装填を終えると、至極不機嫌そうな顔でその銃口を神父に向けた。
「っ!? 逃げろ!」
ウォードッグの意図に気付いたハリーが咄嗟に大声で叫ぶが、もう何もかもが遅すぎた。
「――――邪魔なんだよ」
ポツリ、とウォードッグが呟いた、その瞬間――――爆発にも似た凄まじい撃発音と共に、神父の胸が吹き飛んだ。
「っ……!」
強烈な威力を誇る.30-06スプリングフィールド弾に左胸を撃ち抜かれた神父は、そのまま胸を真っ赤な華を咲かせるみたく肉を吹き飛ばされて。そして左腕までもが肩口から千切れ飛ぶと、そのままバタリと仰向けに倒れて事切れる。
「ひっ……!?」
それを目の当たりにしてしまい、和葉が怯えた声を漏らす。それにハリーは「見るな……!」と言って目を逸らしてやりながら、しかし己が内で吹き上がる怒りの沸点が限界を迎えたことにも気付いていた。
「チッ、邪魔しやがって……」
大きく舌打ちしながら、またトンプソン・アンコールを再装填するウォードッグ。その再装填作業が終わった直後、祭壇を飛び越えたハリーが遂に満を持して奴の前に躍り出た。その顔を、怒りの色に染め上げて。
「ウォードッグ、貴様――――ッ!!」
「来たかァ、ハリー・ムラサメェェェッ!!」
USPコンパクトと、トンプソン・アンコール。二つの銃口が睨み合い、そして二つの銃声同士が重なり合う。
そんな中――――教会の中では相変わらず、鳩が飛んでいた。白い羽を、ふわりふわりと上から舞い落としながら。
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