第44話 居場所ーアネットside


 私には生まれた時から居場所がなかった。母は私を見捨てたりはしなかったけど、私を愛してはくれなかった。父が私を娘だと認めなかったからだ。

 十四歳になった時、その原因である妖精がそれが事実である事を教えてくれた。自分が貴族の生まれで、妖精のチェンジリングで入れ替えられていた事を笑って話す妖精を思わず握りつぶしそうになった。

 私の代わりに貴族として暮らしている、その娘も私と同じ被害者だった。だからなるべく暮らしやすいように大きな家に移った。貴族から庶民になるその子が暮らしやすいように私なりに考えたのだ。

 それならこのまま黙っていればよかったって? それはできなかった。私は家族に愛されたかった。そしてそれは本当の家族になれば得れるものと思っていたから。

 妖精に言われるままに、合格発表に行く必要がないのに行って本当の家族に会った。私そっくりの母親が泣きながら抱きしめてくれた時、これだと思った。私は長い事、これを待っていたのだと。弟や妹のように両親に抱きしめて欲しかったのだと。

 今まで娘だった子が驚きの表情で立っていることも気にならなかった。でもその娘を置き去りにするとは思わなかった。十四年一緒に暮らしてきても、他人だってわかった途端あっさりと捨てる家族が恐ろしくなった。私の事を愛情深い目で見ていても、いつ掌返すか分からない。捨てられるのが怖い。自分は前の家族をあっさり捨てておきながら勝手かもしれないけど、見捨てられないように必死に貴族としての立ち振る舞いから言葉遣いを学んだ。癒しの魔法が使えないというだけで、前の娘は使用人からも馬鹿にされていたようだ。それも両親が養子に出そうとしたことがあったからだと聞いて驚いた。自分たちの娘だと思っていても、癒しの魔法が使えないだけで養子に出す? 私が癒しの魔法が使えなかったら、娘だと認めただろうか? そう考えると自分の価値がそれだけのような気がして、ベッドの中で何度も泣いた。

 ここに味方はいない。信じられるのは自分だけ。初めてできた兄は私の味方ではない。優しくはしてくれるけど、私ではなく違う人を見ている感じが嫌だった。

兄さまと呼んでいても遠い人だ。でもアンナと呼び間違えて、眉を寄せる兄の方が両親よりずっと人間味があると思う。



アンナの婚約者だったエドモンド様が、アンナと共同で店を経営してると聞いたのは夕食の席だった。アンナのことを話す両親の顔には何も浮かんでいない。十四年の歳月などなかったかのように、ただの庶民として話している。

兄は何も言わなかったけど、私は兄がもっと前からこの事を知っていたのではないかと思った。

アンナのことを気にしているのなら、もっと見える形で助けてあげればいいのに。本当に貴族ってわからない。

両親はエドモンド様がアンナと共同経営をしているのが気に入らないようで、私に学院で仲良くしていないのかと聞いてきた。

仲良くも何も話をしたことすらあまりない。

両親はいずれは私の婚約者にするつもりのようだけど、難しいのではないかと思っている。でもここでそんなことを言えば、役立たずだと思われるので言わない。

ただニッコリと微笑むだけだ。

内心ではドキドキしてた。このままではよくないことが起こる。そんな気がした。

両親にとってアンナがどうでもいい存在なら、何をされるかわからない。庶民をこの国から追い出すことなんて簡単にできる。

正直アンナがどうなろうと私には関係ない。でもマルやフリッツたちまで巻き込まれてしまうかと思うと気が気でない。

どうしたらいいんだろうと食事の間ずっと悩んでいた。

部屋に帰るために廊下を歩いていた時、隣を歩いていた兄が呟いた。


「心配なら、早めに忠告した方が良い」

「えっ?」


私が驚いた顔をすると兄はフッと笑った。


「食事の間、心ここにあらずだっただろう」


隠していたつもりだったけどお見通しだったようだ。


「兄様はアンナを助けないのですか?」

「私が? 庶民を? それはない」

「妹ではないですか」

「アレはもう妹ではないよ」


本当に素直じゃないなと思う。

私は兄のように元の家族を見捨てることができない。近いうちに忠告に行くことになる。それはとっても嫌な役目だけど必要なことだ。

エドモンド様にも恨まれることになりそうだ。

本当に貴族って面倒くさい。

でもここが私の居場所。ずっと求めていた居場所なのだ。

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