第42話 十五歳 4
今日はフリッツと一緒に帰るつもりだった。
慰めることができるのは自分だけだって思っていた。でも私なんかよりずっとふさわしい人がいた。
目の前で手をつないで歩いている二人を見て、初めて気づいてしまった。
フリッツの想い人ってマリーだったのか……。てっきり片思いだと思っていたけど、二人の歩く姿を見ていると両思いだというのがわかる。
『クリューは気づいていたの?』
『知らなかったのはアンナだけだよ』
『だって、背だってフリッツの方がだいぶ低いし、年齢だって離れているし、全然わからないよ~』
『まあ、マリーの方も初めは相手にしていなかったみたいだけどな』
『そうだよね~。四歳も年下なんて考えられないものね』
それでもマリーはフリッツを選んだ。フリッツはマリーより四歳も年下なのだからきっと悩んだはずだ。
相談してくれなったのは私がフリッツの姉だからだろうか。相談してほしかったなぁ。友達と恋バナするのが夢だったのに残念だ。
「そう、それで二人を見ながら帰って来たの」
「そうなのよ。手なんか握り合ってて、なんだかあてられちゃった」
ベラにフリッツとマリーの話をすると、ベラも二人の仲を知っていたようで笑っている。本当に私だけが知らなかったみたい。もちろんベラにはアネットと会った話はしていない。フリッツと話し合って決めたことだ。
「ふふ、アンナも早くいい人を探さないとね」
それは庶民の私と同じ身分の人だってことだよね。四歳年が離れているくらいなら許されても、身分が違う恋は許されない。わかっていたのにエドが近くにいるから、どこかで期待していたのかもしれない。
「いい人見つかるかしら」
「なんだ、なんだ? いい人を紹介してほしいのか?」
ジムがいつの間にか帰って来たらしい。今日は飲んで帰ると言っていたから、もっと遅いと思っていたのに…。
「ジムには言ってない。それに酒臭いから近付かないで!」
「ちぇ、アンナはいつまでたっても他人行儀だな」
「他人だからね」
どうしてもジムには酷い言い方をしてしまう。初めの出会いが悪すぎた。
でもこうやって言い合えるのもいい関係のような気がしないでもない。だって私は前の父とは言い合ったことなどないし、本音を話したことさえない。
「でも、まあ、まだアンナに男は早い。いい人を紹介するのはまだ先の話だな」
「そんなこと言ってたら、アンナは行き遅れになりますよ」
「アンナ一人くらい、嫁に行かないでも俺が面倒みるさ」
「そんなこと言って、アニーもいるんですからね」
「そうだな。アニーもアンナも俺が面倒みるぞ~」
「もう、酔っ払っているのね」
ジムは結構酔っ払っていたようで、その後も「嫁に行くな~」とか支離滅裂なことを叫んでいた。
『すごいな~、アンナの父ちゃんは』
『あれ、私の父じゃないから』
クリューは私の肩の上でずっと笑っていた。
どんなに大声で笑っていてもクリューのことは私にしか見えないし、クリューの言葉も私にしか聞こえない。
よく考えたらとっても不思議。
『どうして私にだけクリューが見えるのかな』
今さらな気もするけどクリューに尋ねる。
『不思議だよね。僕が姿を見せようとしていないのに見ることができたのってアンナが初めてだ』
クリューもよくわかっていないようで首を傾げている。
『私も妖精が見えたのはクリューが初めてよ』
『でも他の妖精とは会ったことがないだけかもしれない。アンナは見える人なのかもしれないな』
『見える人?』
『僕たちが見える人がたまにいるって聞いたことがある。本当に数少ないらしいけどな』
妖精が見えるってことがすごいのかどうかはわからないけど、少なくともクリューが見えたことで私は助かった。
クリューがいなければ私は庶民として暮らしていくことにもっと時間がかかったと思う。そしてクリューがいたから寂しい思いをしなくてすんだ。
『いつも一緒にいてくれてありがとう』
私は心を込めてお礼を言った。
『へ? 急になんだよ。びっくりするじゃないか』
『そんなに驚くようなことじゃないでしょう』
『いや、驚くって。急にありがとうとかびっくりだよ』
あれ? もしかして『ありがとう』って初めて言った? いや、一回くらいは言ったことあるはず。もう大袈裟なんだから。
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