第16話 十四歳7
掃除をするために家を探検することにした。アニーは母と一緒に洗濯にはいかなかったようで一人で遊んでいる。私を見るとビクッとしたけど目は私を追っている。私のことが気になるようだ。
部屋は三部屋あり、私の部屋の隣は母とアニーの部屋でその隣がマルとフリッツの部屋だった。庶民に暮らしから考えると広い部屋だと思う。貴族の暮らしからすると非常に狭いけどね。まだこの家に引っ越して間がないのかもしれない。
マルとフリッツの部屋も散らかってはいないので掃除は簡単だ。クリーン魔法をかけるだけでいい。これでシーツも奇麗になる。洗濯をしている母には悪いけど魔法を使えば洗濯も簡単に終わる。
母とアニーの部屋も同様にクリーン魔法をかけた。
アニーは私の魔法で部屋が一瞬で奇麗になるのを見て目を輝かせている。
でもこの魔法は初歩で、魔力さえあれば習得するのはとても簡単なものだ。アネットが使っていた癒しの魔法のように皆を幸せにすることは出来ない。
そう言えばパンがないって言っていたわ。パンを焼きましょう。私には料理しかないのだから。
『クリュー、小麦粉は在庫があったわよね』
『ああ、パンを作る小麦粉もお菓子を作る小麦粉もあるぞ。パンを作るためのアレは昨日のうちに取りに行ってきた。捨てられそうだからな』
『パンを作るためのアレがないと柔らかいパンは作れないものね。助かったわ』
発酵させないとできないアレを新しく作るには時間がかかる。クリューがいなかったら捨てられてしまっただろう。
身体強化の魔法を使ってパンを捏ねていると、母が洗濯から帰ってきた。母は私を見て目を丸くしている。
「アンナは何をしているの?」
「パン作りです。ロールパンを取り敢えず作りますね」
「アンナはパンも作れるの? あのうどんもアンナが作ったの?」
「はい。まだたくさんの種類の料理は作れませんが、多少の物は作れるので任せてください。ただ裁縫関係は全く才能がないので手伝えそうにないです」
期待されても困るので最初から白状しておいた方がいいだろう。
「貴族は刺繍くらいしかしないと聞いているから裁縫ができないのは仕方がないわ。それにしても貴族として育っているのに料理ができるほうが驚きだわ。それもパンまで作れるなんてすごいわ」
ぎこちない微笑しか見ていなかったので、本気で喜んでくれている笑顔にホッとする。
「他の貴族の方は料理を自分ではしないですよ。私の場合は婚約者が私の手料理を食べたいと言うから習ったのです」
「婚約者? その年でもう婚約者がいたの?」
「はい。貴族では珍しくないですよ。生まれた時から婚約者がいるのが普通ですから」
「そう……」
あっ、もしかしてアネットのことを考えているのかしら。アネットは庶民として育ったから婚約者がいない。
「だ、大丈夫ですよ。アネットさんは私の婚約者だった方がそのまま婚約者になると思います」
エドとアネットが一緒にいるところを思うとちょっぴり寂しい気持ちになるけど、母を安心させるためにそのことは隠して説明する。
「はぁ? 貴女の婚約者だったのに今度はアネットの婚約者になるの? アンナは捨てられてしまうの?」
安心させるために言ったはずなのに母は呆れてしまったようだ。
「あっ、それは仕方がない事なのです。元々家同士の婚約ですから、私がアネットに変わるだけです」
「家同士の婚約? 貴族はそういうものなの?」
「そうです。だから私はまったく気にしてないです」
そう、気にしてなんていない。料理だってエドのために習ったわけじゃない。庶民として暮らすために練習していただけなんだから。
「本当に? なんだか悲しんでいるように見えるわよ」
「そんなことないです。私とエドでは釣り合っていませんでしたから。アネットさんの方がずっとお似合いです」
「あら、アンナはアネットのことを知っているの?」
母の不思議そうな顔に私の方が驚く。昨日の合格発表で出会ったことを知らないのだろうか。
「昨日、マンチェス学院の合格発表を見に行った時に見かけたのです。家族は一目で娘だとわかったみたいで、それも当たり前です。アネットさんは母にそっくりでした」
「アネットが合格発表に?」
母は私の言葉に不思議そうな顔をした。合格発表を見に行くのは当たり前だと思う。私たち家族が行くのは貴族としてあり得ないことだったけど、あれは妖精の導きだったわけだし。
「アネットの部屋をどう思った?」
「すごく片付いていました」
「そうね。大事なものは残していなかったわ。それにここに引っ越したのも最近なの。急にこんな大きなところを借りたりして、今思えばおかしなことばかり。家賃もね、昨日いただいたお金で前もって払おうと思って大家さんの所に行ったら一年分払っているみたいなのよ。まるでこうなることがわかっていたみたいだと思わない?」
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