rinon

からあげれもん

はじまり

※初めに、この作品には艶かしい表現やグロテスクな表現が含まれています。あと、最初に数字が割り振ってあるものが本編で、数字を割り振ってないものは外伝みたいなものです。読む、読まないはご自由にどうぞ。



花の谷

日が落ちて綺麗な月明かりだけが頼りの深夜

花の谷と呼ばれる場所の深い谷底にも届く程の月の眩き光

その谷底で眩き月明かりに照らされる2人の人影があった。

1人は背が小さく、塗りつぶされたような真っ黒な出立ちをしていて、もう1人もさほど変わりなくメイド姿の出立ちをしている。2人は少女とも大人とも言えない見た目をしていた。

「またずいぶんと肉が腐った臭いがするな、鼻がもげそうだ」

黒い方の少女がそう言いながら、その谷底に捨てられた竜の死体を丁寧に弔おうと張り切っていた。

見渡す限り様々な傷や病気なのか、泡を吹いたり、苦しそうな表情で死んだ竜ばかりであった。

「しばらく来れなかったので無理はありませんが、やはりここは酷い場所ですね。過去に花の谷と呼ばれていて、とても花が咲き乱れていたとは思えません」

少女の従者なのだろうか、メイドの方もそう答えながら死体を丁寧に弔おうと準備を始めた。

メイドが言った様に、ここの谷の壁面や床なんかは竜のドス黒い血で汚れて、花畑ではなく拷問室の方がぴったりくる印象を受けるのである。

少女が埋葬しようと竜に触れた。

「んぎぎぎぎぎ!」

謎の声を発する少女は見た目同様に非力なのか、竜の尻尾の先が持ち上がる程度でびくともしなかった。

仕方がないので穴掘りを始めた。


一方でメイドの方は軽々と持ち上げては埋葬している。

メイドだからだろうか、立ち居振る舞いのひとつひとつがとても綺麗に見えた。


「むぅ・・・」

しばらくして、竜が持ち上がらなくて穴掘りに専念していたであろう少女が当たりを見回すと、自分でも運べそうな小さな竜を見つけた。

少女はこんな小さな竜まで・・・っと胸を少し痛めていたが、気持ちを切り替えて近づいた。

「ん?この竜・・・おーい、ちょっと来てくれ!」

少女は遠くで作業をしていたであろうメイドに呼びかけた。

すると、メイドは少女の呼びかけに少々嫌な顔をしながら返事をした。

「どうしましたか?ガラクタの回収なら手伝いませんよ」

少女がまた変なおもちゃでも見つけたのだろうかと、メイドはめんどくさいオーラを放っていた。

少女がメイドを呼ぶ時は大抵わがままな事が多かったせいだろう。

しかし、何やら違う様子に疑問を持ちながらメイドが少女の近くに寄ると

「この竜、まだ息があるみたい」

少女がそう答えたのでメイドは竜が生きているか確認してみた。

「・・・・確かに息はしていますが、この竜はダメそうですね」

「そんな・・・傷が大した事なさそうなのにどうして!?」

メイドは首を横に振って、非常に残念な面持ちで伝えた。

「生きようとする意思を感じません」

それを聞いた少女は残念そうにしていたが、少し考えて答えた。

「この竜を連れ帰るぞ」

「ダメです。竜と揉め事は避けましょう、しかもこの竜・・・」

綺麗な白銀色をしていた。

竜は色によって地位が違い、その立場は非常に面倒であった。

それでも少女はきっぱりと言った。

「私はこの子を死なせんぞ!助かる命を捨てる事なんてできない!」

メイドはある事が頭をよぎってそれ以上反論できずに下唇を噛んだ。

「仰せのままに、魔王様」

その言葉を最後に、今日の埋葬を済ませて

小さな竜を連れ帰ったのであった。

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