第120話 コミュ障ぎみで人見知り
ワイングラスに入っていた飲み物が無くなったから今度は白めのマスカットジュースにしようかしら。質問に箕崎真衛が答えてから静まり返ったカラオケルームは再び賑やかさを取り戻したみたいだし、今もグラスの淵に口をつけた私の視界に箕崎真衛が映っている。
「ね~え~箕崎君? 私ゆずはちゃんよりは胸が大きくないのに身長超えてるんだけど、そこのところはどう思ってるのかしら~?」
「い、いえその、そんなに細かい部分までは考える余裕が無かったと言いますか……」
しなだれかかる円香の指摘には頬をかきつつ真実とさらに仲良しの雰囲気を深めたのか前以上にぴったり密着度を高めて一緒に曲を選んでいる箕崎真衛。これだけ距離が近くてもさっき真実が恥じらいながら言ってた発言から考えると、どうやら何もつけず一糸纏わぬ姿でお風呂に入ってるわけじゃなさそうなのよね。少し私が考えてたイメージと違ったみたい。
まあそれにしても、今まで見ている限り今回は私の目的である箕崎真衛の弱点については期待出来そうもないかしら。音痴とかならわかりやすかったけど、特にどの歌もそつなくこなしているし。となればもう一つの目的のためにそろそろ動き出したくもあるわ。
新たに私が視線を向けるのはこのみの歌を聞きながらルリトと話しているゆずはとの方向。ずっと頭の片隅で考えてたことだけど、ぶっちゃけ私まだゆずは達三姉妹とあんまり会話したこと無いのよね。ルリトや箕崎真衛とは気兼ねなく話せるのに、ゆずは達と遠慮のない会話っていうの? ルリトや箕崎真衛を通して話してるっていうか、ルリトや箕崎真衛が仲良くしてるから一緒にいる友達の友達? みたいな空気を感じるのよ。そりゃあもちろん関わりにくくした原因が私にあることは自覚してるんだけど、一応真実から気にしなくても構わないって確認を聞いたわけだし――聞いたわよね? いいって言ってくれてたわよね? うん、聞き間違いじゃなかったはず。ちなみに円香とだってそんなには接点ないけど――
そう思いながら視線を向けると、私の視線に気付いた円香は何かを含ませたような怪しい微笑みを返してきた。
無理無理絶対むりっ! ゆずは達以上に底が見えないっていうか本当に何考えてるかわかんないし、見るからに上級者向けの関わり方を要求されそうだしっ! なんかこう深く踏み込んじゃいけない気配を漂わせまくってるのよっ! とっ、とりあえずルリトに相談してみようかしら……。そろそろ私とも話してくれないとちょっぴり面白くないわっ。
という訳で向かい合わせに話すルリトとゆずはの会話に少々割り込む形で座ってみる。
「ね、ねえねえルリト……」
「っ、リシアちゃん……?」
顔を向けてくれたルリトにさっき考えてたことを耳打ちすると――、
「ふふっ、そうなんですか。わかりました」
その時ちょうどこのみが歌い終わったところでルリトは席に戻るこのみと向かいに座るゆずはに話しかけた。
「このみさん、ゆずはさん? リシアちゃんが――んむっ!?」
全てを察した私は咄嗟にルリトの口を塞ぐ。疑問符を浮かべながらゆずはとこのみが見てる中で声はルリトの耳元にだけ届くくらいに抑えつつ焦りを伝えるためリアクションはオーバーになってしまう。ルリトも音量を合わせてくれた。
「ちょちょちょちょっ!? 何しゃべろうとしてるのルリトっ!?」
「? リシアちゃんがゆずはさん達と仲良くなりたい気持ちを伝えようと……。わたしを通して話してほしかったんじゃ――」
「はっ、恥ずかしいでしょ!? 面と向かって仲良くなりたいなんて言えるわけないわっ!」
「っ、大丈夫ですよ。ゆずはさんもこのみさんもからかうような人じゃないです」
「そ、それでも伝えるのはちょっと……。私が自分で話しかけたいから、ルリトには何かこう、アドバイスをしてほしかったっていうか……」
「あどばいす……ですか? う~ん……普通でいいんじゃないでしょうか。こう自然に、ふつ~うに……」
あ~うん、ルリトはこんなふうに悩んだことなかったのね。私にとっては全然身にならないけど、かわいいから嬉しいアドバイスだわルリトっ。
とにかく今はゆずはとこのみに何でもない旨を伝えておいてっと。このみの次はようやく歌を選び終わったらしい真実が歌い始めたわね。まずはゆずはから話しかけてみようかしら……。
私はゆずはに近寄って座り、真実の方を向いて歌を聞くゆずはの背後から声をかけてみる。
「あの……」
「…………」
「えっと……」
「…………」
「ね、ねぇ……」
「………………」
ショックを受け心をへし折られた私は再びルリトの側へと戻りルリトにしか聞こえないくらいの声で訴えた。気圧されるルリトは両手を前に出して私を抑えるような仕草を見せる。
「ルリトっ! 無視よむしっ! ゆずはに無視されたわっ! やっぱり私となんて――っ!」
「お、落ち着いてくださいリシアちゃん……歌が響き渡る中であんなにか細い声じゃ全然聞こえませんから……」
「そ、そう……?」
「今度は肩に触れながら声をかけてみたらいいんじゃないですか……?」
「っ、わ、わかったわ……」
ゆずはにもう一度挑戦するのは怖かったので次はこのみに挑んでみる。
「ちょ、ちょっと……」
「っ、えっ?」
「っっ―――!」
肩に触れたのが功を奏したのかこのみはすぐに気付いてくれたけど、またしてもルリトの元へと逃げ帰ってしまった私。
「ルリトっ! 振り向いてくれたけどそこから頭真っ白でいったい何話したらいいのかわからないのっ! ていうかこのみの反応もちょっと威圧感こもってたような気がしてっ! こう、どうして話しかけてきたのみたいなっ、えぇ? って! ええ? って!!」
「う、歌が響いてるせいで少し大きめの声を出しただけでは……」
「っ、そ、そうかしら……」
「……リ、リシアちゃん、そんなに焦る必要もないんじゃないですか? 時間はたっぷりありますし、きっかけがある時にでも距離を縮めていけば……」
「そ、そうね……無理しなくてもいいわよね……」
ルリトの意見はその通りなのだけど、失敗したことは事実なので少し肩を落とし気味になる。そのまま真実の歌う曲が終わりかけた頃、
「そろそろ二人とかで歌ってみたりするの、良いと思わない?」
そんな円香の提案がカラオケルームに響いていた――。
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