興味と欲望は違います 3

 夜の時間はあっという間に過ぎていった。

 優姫さんがトランプを出してきてババ抜き大会になったのだ。

 10戦やって僕と雄介さんが1敗。ポーカーフェイスがとても役に立つゲームで負けたのは単純に運が絡むからだ。

 次いで詩織さんが3敗。実力的には普通だろう。たまに顔に出るくらいだ。


 そして最下位は――


「どうしてみんな強いの!?」

「優姫が顔に出やすいんだよ」

「ゆきちゃん我慢できないもんね」

「バレバレでした」

「………」


 言い出しっぺで今はうなだれている優姫さん。

 直感勝負なところが多く、顔にも出ているため僕と雄介さんにとってはカモみたいなものだ。


「悔しい……」

「ゲームですから、強い弱いがあるのは仕方ないですよ」

「ポーカーフェイスはズルい……」

「ここで使わなければどこで使えって言うんだい?」

「む~~」

「昔からゆきちゃんは負けず嫌いね」

「ポーカーフェイスが役に立たないゲームってありますか?」

「そうね…………」

「ブラックジャックはどうだろう?」

「それならいいですね」


 ブラックジャックならポーカーフェイスを使っても意味がない。ほとんど運に左右されるゲームだ。


「じゃあカジノルールでやろう。持ち金は全員5000、ディーラーは僕、最低掛け金は100。それを10回。これでいいかい?」


 全員が首を振って了解する。



 ~~~



「勝ったー!!」

「惜しかったです」

「負けちゃったわね」


 結果は1位、優姫さん。2位、僕。3位、詩織さん。


「本当に優姫が勝つとは思ってなかったよ……」

「何それ?どういうこと?」

「単純に運で勝ったんですか……」


 ブラックジャックにも戦略がある。

 それでも負ける時は負けるし勝つときは勝つけれど。


 その時、優姫さんの口からあくびが漏れた。


「もう遅いから終わりにしようか」

「ゆきちゃんは先にお風呂に入っちゃいなさい」

「はーい」


 てくてくとお風呂場に向かっていく優姫さん。


「島村くんも優姫と一緒に入るかい?」

「冗談でもやめてくださいっ」

「私はいいよ?」

「僕が良くないです!」

「島村くんが照れてるところ、初めて見たよ」

「私も」


 やめてくださいお願いします……。ポーカーフェイスを破らないでください……。


 僕は恥ずかしくなって床にうつぶせに突っ伏した。


「島村くん、ごめん。優姫がお詫びに何かしてくれるって」

「(ゆきちゃん、夜這いはどう?)」

「(やってみる)」

「聞こえてますから!夜這いとかやめてくださいっ」

「なんでよ~」

「優姫さん、その反応はおかしいと思います」


 まるで夜這いしたかったみたいじゃないか。


「ふたりとも、その辺でやめとこう。島村くんの顔が真っ赤だ」

「…………」

「はい、お風呂入ってきます」

「コーヒーでも淹れようかしら」

「頼む」


 優姫さんと詩織さんが離れていく足音がする。

 続いて僕に近づいてくる足音がひとつ。


「島村くんごめん。君がそんなに照れるとは思ってなくて」

「それってバカにしてますか?」

「ちがうちがう、意外に純情だなって」

「バカにしてますよ……」

「そんな恋愛初心者の君にアドバイス。……添い寝くらいはしてもいいぞ」

「………っ」


 雄介さんが離れていく。


 顔が熱い。あれが経験の差なのか……。


「あ、あとお義父さんって呼んでくれてもいいんだよ?」


 手がぴくっと反応してしまう。

 ゆっくり起き上がって雄介さんに向きなおる。


やめておきます」

「……そうかい」


 雄介さんは笑っていた。


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