気持ちは言葉にして 7
「遼くん、こっち」
僕の家に着くころには先輩は復活してすっかり元気になっていた。
「ソファ、ですか?」
「うん、早く」
また続きをするつもりなのだろうか。もう耐えられる自信はないぞ。
でも今日は先輩に絶対服従の日なので逆らわずにソファに腰掛ける。
「それで何を――っ」
「こうするの」
先輩は身軽に僕の太ももをまたいで座った。
あまりに速くて避けられなかった。
これって相当不味い状況だ。
先輩にイニシアティヴを渡したらどうなるか半分解ってるのに頭が理解しようとしない。
「遼くん、じっとしててね?」
「……っ」
『魅了の眼』が僕を睨む。
力が抜ける。何か対抗策はないのですか……?
先輩が首に口を当てる。
そして痛み。冷える感覚。
「優姫先輩」
「ひゃっ」
先輩が吸血してる時、必然的に先輩の耳と口の距離が近くなる。
それにしても驚き方が可愛い。
その耳元で僕が一度も口にしていなかった言葉を囁く。
「好きです」
この言葉だけは言っていなかった。
先輩を心配させたかもしれなかった。
だから先輩の幸せな時にプラスして教える。
僕と先輩が同じ気持ちだってことを。
「不意打ちはずるいよ……」
ぎこちなく傷を消した先輩が僕の肩にうずくまって言う。
そんな先輩の頭を片手で抱えて反対の手を腰に回す。
「優姫先輩、焦っていましたから」
「なんでそういうことはわかっちゃうかな……」
先輩が悔しそうに呟く。
本当は視えたわけじゃない。推理してみたのだ。
「今日は僕はなんでもしますから」
「…………」
「何を言ってもいいんですよ」
先輩の動きが止まる。そしてゆっくり顔が上がる。
「そのまま動かないで、目をつむって」
「仰せのままに」
大人しく目をつむり、手を離す。
僕の両肩に手が置かれる。
先輩の息遣いが聞こえる。
先輩の息が聞こえなくなる。迫りくる気配。
僕は力を抜いてその時を待つ。
唇に触れる柔らかい感触。
本当のファーストキス。時間が止まればいいのにと思った。
この幸せだけをずっと感じていたいとそう思えた。
先輩が口を離して息をする。
同じタイミングで目を開けて先輩を見る。
「優姫先輩、ありがとう」
先輩に抱き着く。思い切り抱きしめる。
「わっ、ちょ」
バランスを崩して左に倒れこむ。
ソファに二人が向かい合って寝ている構図。
この近い距離が僕をおかしくさせた。
「先輩、僕の居場所をくれてありがとう」
「ぇ?」
額を合わせたまま僕は眠りについた。
~~~
目を開ける。
眠ってしまったようだ。
枕が高くて柔らかい。
いつもは仰向けで寝るのに今は左を下にして寝ている。
一気に覚醒する。
目に入るのは黒の布。
窓から差し込む赤色の光。
顔を上に向ける。
「起きた?」
「お、起きました……っ」
かなり近いところにある先輩の顔。
慌てて転がり床に降りる。
「ごめんなさい寝てしまったみたいで」
「いいよ。寝顔可愛かったから」
先輩が微かに赤い顔で笑う。
思い出されるのはあの接触のこと。
僕の顔も熱くなる。
時刻は午後6時10分。もう遅い。
「送ります」
「じゃあお言葉に甘えて」
僕は先輩に手を差し出した。
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