気持ちは言葉にして 6
「わかりました優姫先輩、どうぞ」
僕はきちんと座り直し、膝を叩く。
「ありがとっ」
先輩は飛び込むように僕の太ももに頭を預ける。
先輩が耳にかかった髪を直し耳を出す。耳が微かに赤いのは見間違いじゃないだろう。
広がった黒髪に触れたくなるの気持ちを抑えて手を下ろす。
「僕はどうしたら……」
「歌っていいよ」
そう言われましても、思いつく曲は一つしかないんですよ。
仕方なくそれを入れてマイクを取る。
ついでに端末で音量を下げておく。
『君と僕とで世界を、冒険してきたけど――』
「…………」
歌い終わると先輩は寝息を立てていた。
途中から重くなったような気がしていたが寝ていたようだ。
無防備に寝顔をさらすなんて、しかも男の前で。いじられても文句は言えませんよね。
カラオケの音量をゼロにした。
まず先輩の髪に触れた。綺麗な黒髪は見ているだけでも罪なのに手触りも抜群だった。
「んっ」
驚いて手を止める。
先輩が身じろぎする。
脚がくすぐったい。
「優姫先輩が悪いんですよ?こんなに可愛いから」
先輩の頬をつついてみる。
先輩は動かない。
先輩の頬に口を寄せる。
そのまま近づけて距離をゼロにする。
柔らかい。ふわってしてる。
顔を離して、今度は先輩の耳に近づく。
「大好きですよ、優姫先輩」
やっぱり少し気恥ずかしい。相手が寝ているからといって恥ずかしさがなくなるわけではないよな。
「んんっ」
先輩が今度は少し大きく動く。顔が半分動いて上を向く。
目は閉じている。起きる気配はない。
少し息を吸って気持ちを整える。
僕の視線は先輩の唇に吸い込まれていく。
綺麗なピンク色の小さな割れ目に顔を近づける。
本当に綺麗な寝顔だ。全く文句がつけられない。
こんなに可愛い先輩が悪いんですからね。
あんな可愛いことを言う先輩が悪いんですからね。
そんな先輩のことが好きな僕が悪いんです。
僕は息を止め、唇を先輩のそれに押し付けた。
ふにふにして頬とは違った柔らかさだ。
数秒で離す。少し名残惜しいがこっちの心臓がもたない。
「しちゃいましたね」
「…………」
先輩の反応はなし。逆に反応があっても困るけど。
でも起こしたほうがいいかな。
「先輩、起きてください」
「んー」
ちょっと動くだけか、なら耳元で……。
「優姫先輩、キスしちゃいますよ」
「はうっ!?」
変な声を上げていきなり起き上がる先輩。
間一髪で上がってくる頭を避ける。
起き上がった先輩の顔は真っ赤だった。
「心臓に悪いじゃない!」
「それなら追い打ちでもう一つ」
先輩の両肩を掴み、耳元に口を近づける。
「キス、しませんか?」
「んなっ……!」
「ダメ、ですか?」
「そのっ……あぅ……」
先輩は抵抗はしてこなかった。
でもこのままじゃ先輩がオーバーヒートしそうだ。
手を離し、先輩を自由にする。
するとソファの上に女の子座りでへたり込んでしまった。
「ここは……だめ……」
「わかりました」
「もう……」
「歌えますか?」
先輩は黙って首を横に振る。
それもそうだろう。ほとんど腰が抜けている。
「じゃあ出ましょうか」
「うん……」
受付でマイクや伝票を渡して店を出る。
「これからどうします?」
実のところ1時間も経っていない。
「遼くんの家」
この状況でそれはマズいと思うんだけど……。
それでも先輩のお願いを聞いてしまう後ろめたさが僕にはあった。
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