気持ちは言葉にして 1

 連休二日目。

 今日は水族館に行くはずだ。

 暗い館内だと顔が見えないこともあるので明るめの色を着ていく。

 昨日買ったベージュのチノパンツを穿いてキャメルのベルトを締める。

 上は白のトレーナーでいいだろう。フード付きだから背中が温かい。

 鞄は……黒の肩掛けバッグかな。


 朝食は食べた、集合は9時で現在7時。歯も磨いた。髪も整えた。

 準備完了。待ち合わせ場所は昨日の駅から少し遠いところだが時間が早すぎる。

 もちろん早すぎるのには理由がある。

 財布よし、携帯よし、ハンカチ、タオル、ポケットティッシュ、折りたたみ傘……。

 大丈夫、では行こう。

 僕は靴を履き、玄関を開けた。



 ~~~



 時刻は7時30分。ちょっと早かったかな。

 僕は香川家の前に居た。

 早くに家を出たのはこのためだ。

 先輩を迎えに行くため。本音を言うとちょっと慌てるところが見たかっただけではある。

 さあ、どんな反応をするかな?

 表札の横に付いたインターフォンを押す。


 ピーンポーン

『はーい』

「島村です」

『あら、ゆきちゃん?ちょっと待ってね』

「わかりました」


 詩織さんが出た。休みの日の朝早いのにしっかりしてるな。

 詩織さんが玄関を開けてこっちに手招きする。

 手ぶりに従って玄関まで行く。


「入って、ゆきちゃんはまだ用意してるから」

「いいんですか?」

「いいからいいから」


 そういう詩織さんは何か楽しそうだ。

 それに甘えて家に上がらせてもらう。居間に入って食卓に座らせてもらう。


「はい、麦茶。今のでお父さん起きると思うから相手してて」

「わかりました」

「あ、朝食食べてきた?」

「食べてきました」

「えらいね、最近食べない人の多いのに」


 詩織さんは呟きながらキッチンに入っていった。

 それと入れ替わるようにして雄介さんが居間に入ってきた。


「お邪魔してます」

「お、島村くんどうしたのこんな朝早くに」

「先輩のお迎えに上がりました」

「そうか、今日もデートか」


 雄介さんは僕の前に座り、両腕をテーブルの上に上げて身を乗り出した。


「昨日の今日で。何かあったとしか思えないな」

「違いますって。昨日のデートの時に『明日も明後日も』って言われたんですよ」

「そうか、優姫もやるな」


 感心して頷く雄介さん。

 確かに昨日はやられましたね。断れなかったですから。


「昨日言いそびれたと思ってね」

「何ですか?」

「優姫は吸血鬼でね、学校ではあまり友達がいないみたいなんだよ」

「吸血鬼は知ってました。でも友達が少ないのは意外です」

「あんまり我慢ができないから人を寄せ付けないんだとさ」

「なるほど」


 今度先輩の教室に行ってみよう。お昼でも誘おうかな。

 あ、弁当作るのもありだな。


「学校でも良くしてやってくれ」

「わかりました」


 タイミングよく階段を下りてくる足音が聞こえた。


「やっとお出ましかな」

「そうみたいですね」


 ドアの曇りガラスに影が差してドアを開ける。


「おはよう……ってなんで!?」


 昨日買った短めの白のキュロットに黒と白のボーダーの長袖。それに黒ストッキング、黒の小さいカバン。

 白黒で統一されてるからモノトーンって言うのかな?

 下ろした黒髪に似合っている。今日も可愛い。


「おはようございます。迎えに来ちゃいました」


 僕は先輩を眺めながら笑顔で返した。


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