【赤い糸と黒い鎖 Ep.6 終】

 ガラララララ…。

俺の目線の先に、小さな粒がたくさん現れる。

「あれは…うちの棟の奴らじゃねぇか…?」

それは、囚人服を着た、同じ棟の仲間たちだった。化け物と化した少女の眼の前に、彼らは現れた。彼らは手に軽機関銃のようなものを持っていた。

「彼らには、目の前の生き物を討伐してほしいと言っておいた。さあ、彼らはどうなるかね…?」

スピーカーの男が彼らを嘲笑わらうかのように言葉を放つ。そして、彼らは手に持つ拳銃をダダダダと撃ち始める。しかし、彼女の職種は鉛の弾など通すことなく、すべて弾く。そして、たったひと振りで、人間の力はこんなに弱いのかと思い知らされるくらいほこりのように吹き飛ばされる。そして、彼らは蚊のように潰され、死んでいった。


 これが、化け物かのじょの力であった。

 俺は、受け入れるしかなかった。


 彼女はもう、人間ではない。

 俺とは住む世界が違うと。


 だから、拒絶するしかない。

 男の言うことに従うしかない。


 






























 そんなこと誰が言った?

 

 少女が人間じゃなかったら、


 一緒にいちゃダメなのか?


 そんなことはない。


 第一、俺の道を他の人が決める権限などどこにもない。

 

 俺の親の命を奪っていいなんて、

 

 彼女の母親を殺していいなんて、

 

 そんな権限誰にもない。

 

 道を決める筋合いなどない。

 

 俺の道は俺が決める。

 




 俺は、彼女との約束を守るために、

 ここにいるんだ────。






























「あああああああああああああっ!」


俺は割れたガラスの隙間から飛び出し、彼女の触手へと飛びつく。


(おやおや…愚かなものめ。最後を見届けてやるよ。)


俺は彼女に振られながらも、死ぬ思いで触手をつかむ。

そして少しずつ、彼女の方へと這っていく。

「ウガァァァァァァッ!!!!」

彼女は思いっきり叫び、俺を跳ね除けようとする。飛んでくる触手を間一髪で避けながら、とうとう彼女の元へとたどり着く。

「ウガァァァァァァァァッ!!!!!!!!」

彼女の目は、殺意の怨念を纏ったようなどす黒い紅色だった。

「おいっ…!大丈夫だから、俺の話を聞け!」

「ウガァァァァッ!!!!」

彼女は俺の声など聞こえていないようだった。俺に、大きな、獣のような声をあげ威嚇した。

そして────、


 グシャァァッ────…


「え。」

俺の腹部は、一瞬にして真っ赤に染まり、俺の腹からは、太い触手が生えていた。俺は、強い激痛を味わった。頭が痛いという感情を処理できず、意味のわからない苦しみが襲ってきた。息ができず、頭の中が空っぽのような感覚に襲われた。それでも、俺は彼女を助けることだけは忘れなかった。

「必ず…俺は…彼女を…っ!」


 ────ちゅっ…。


俺は彼女にキスをした。彼女の唇は冷たく、固かった。ファーストキスは、イチゴの甘酸っぱい味と聞いていたが、そんなことはなかった。俺は、そのまま意識を失った。








 気づくと、俺は彼女に抱えられていた。彼女は顔をくしゃくしゃにして俺の頬に大粒の雨を流していた。彼女は俺の腹部に手を当て、触手のようなもので延命処置を行ってくれていた。

「大丈夫…仕方ないよ…。ありが…とう…」

俺はやられた肺の痛みを我慢してえ、精一杯の声で話した。

彼女は顔をふるふると横に振り、ずっと泣いていた。

「君が…元に戻ってくれて…よかった…」

ぼーっとする頭の中、俺は彼女に一生懸命声を出す。

彼女はずっと声をあげて、泣いていた。

俺は震える手で、彼女の頬に流れる雫をすくい上げた。

「君は…鎖で繋がれるような…存在じゃない…。その力を…人を殺めるのじゃなくて…救う方に使って…な…」

彼女は何回も頭を縦にふる。

俺はそれを見て微笑む。頭の感覚がなくなっていき、とうとうもう体に力を入れられなくなる。

彼女もそれに感付き、俺の名前をずっと呼び続ける。

でも、その時は訪れることを、2人とも知っていた。

「ごめんな…」

俺は彼女に謝る。

彼女は首を横に振り続け、『死なないで』と何回も言う。

俺は微笑み、最後の力を振り絞り、少女の頬を両手で覆う。そして────、

「大丈夫、いつでも…俺らは…『赤い糸』で繋がってるから…」

俺は最後に口パクで6文字の言葉を伝え、そして、意識を手放した。





 俺の口元に、暖かな温もりを感じた────そんな気がした。

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