【君と夏に見た夜空の華】

 たったったった…っ

はぁ…はぁ…はぁ…。やっと…ついた…。俺らの場所…っ…。

『あ、やっと来た』

俺は息を切らし、ゼェゼェと吐きそうなくらいである。

「つ…疲れたぁぁぁ…」

『もう…会えないのかと思った!』

俺はすぅ〜…はぁ〜…っと深呼吸をして息を整える。

履きなれない下駄で祭りに来たのが仇となってしまった。

「いてて…下駄の緒の部分が食い込んでいてぇ…」

『まあいいじゃん。着物も下駄も似合ってるよ」

心臓も元の速さで動き出し、赤血球もおとなしくなった頃、


 ヒュゥゥゥゥゥ………ドォン!!…パラパラパラ……


花火が上がり始めた。

「綺麗だなぁ…」

『そうだね…!』

花火が打ち上がる前にこれてよかったと安心する。

「昔は君とここでよく花火見てたなぁ…」

『本当だよ!君が仕事につくと遠くに行っちゃって全然来ないんだから…」

俺は懐かしく、幼かった頃の彼女との思い出を思い出す。

感情移入しすぎたのか、なぜか不意に雫を落としてしまった。

『な…っ、泣いてる!?』

「やべ…なんか泣いちゃった…俺も子供だなぁ…」

『可愛い…(笑)』

ドォォン!…花火の音で現実にひき返される。何度も見てきた同じ光景。

それでも俺は、こんなにここの花火は綺麗だったかと思う。

俺が住むところは都心で、周りはビルだけで花火なんか上がらない。

だから、懐かしいこの河川敷で見る花火はとても綺麗に見えるのだ。

「ちょうど…10年前だよな…この花火が終わった後に…」

『まだあのこと引きずってるの?いいって言ってんじゃんかぁ(笑)』

「俺がいたら…あんなことにはならなかったのに…ごめんな…」

『謝るなよ…終わったことなんだから…!ほら、引きずらないの』

俺はまた泣き出しそうな涙腺をきゅっと閉め、涙をこらえる。


────もう花火が終わる。俺はもうあんな思いはしたくない。と、気持ちを引き締め、

綺麗に打ち上がる夜華はなびから目を背けた。


「あ、明日まで仕事休みか」

俺はカバンから取り出した手帳を見て、独り言をつぶやく。


「明日、君に顔見せに行くよ。」

『うん。待ってるから。』
























「離れてください!押さないでください!」

警察の声が聞こえる。俺は人ごみの中に押し入る。




      え、なに?


                   事故?

   どうしたの?

                               死体見えるかもよw


          血見えるでここから

 

                                  俺当たるとこ見たわ

                         女の子…?


     まだ幼いのにね…

                   車と衝突?


                              轢き逃げらしいよ


          祭りの日に縁起悪ぃ〜w

                                    ママ、あれなに?



え──。

嘘だろ。


  あれ、俺の────。









10年間、俺はこの夢ばっかりを見てきた。

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