114.ケジメ
レイクさんのお屋敷の広間。
アル王女が椅子にふんぞり返り、その後ろにレイクさんとキラーリアさんが立つ。セバンティスさんは一歩ひかえて入り口付近にいる。
僕、リラ、ルアレさん、ピッケの4人はアル王女の向かい側に立っていた。
4人の気持ちを代表し、僕がアル王女に叫ぶ。
「どういうことですか、それは!?」
いや、だってさぁ。
これまでアル王女を女王にするために――つまり、王位に就けるために僕たちは戦ってきたはずだ。
それこそ、エルフの里やベゼロニア領や王宮では人もたくさん死んだ。
それでも、僕らはここまで突き進んできたのだ。
それなのに、こともあろうに王位はホーレリオ王子に押しつけてきたという。
その言い方は、アル王女自身の意思で、王位継承を拒否したとしか思えない。
僕が叫んだのも無理からぬことだろう。
アル王女は叫び狂う僕を見ながら、冷めた声で言う。
「落ち着け、パド」
「これが落ち着いていられますか、一体どういうことです!? なにがどうしてそうなるんですか!?」
くってかかる僕の後ろから、ルアレさんが冷たい声を発する。
「正直、エルフ族としてもその結末には理解しがたいものがありますね。アル殿、あなたがエルフの里で我々の
さらに、ピッケも。
「うーん、オイラとしてもちょっと納得いかないかなぁ。父ちゃんも怒ると思うよー」
そりゃあそうだ。エルフの里であれだけ熱弁しておいて、最後の最後にこれじゃあ、エルフも龍族も馬鹿にされたとしか思えないだろう。
さらに、リラ。
「アル様、私も納得できません。アル様は結局何がしたかったんですか?」
うわぁ、怒ってる。皆怒っているよ。
無理もないけど。
僕、リラ、ルアレさん、ピッケに睨まれ、アル王女はうざったそうに「わかったわかった」とあしらおうとする。
いや、それはまずいって、アル王女。
リラや僕はともかく、エルフや龍族を翻弄したっていうのは、本当にまずいって。
この状況はある意味、王位継承戦の時以上に一触即発なんじゃないか?
「お前達が憤るのは理解できる。ちゃんと説明するから、まずは落ち着け。四人とも椅子に座って私の話を聞け。それと、セバンティス、ハーブティーでも持ってきてくれ。気持ちが落ちつくヤツな」
いや、ハーブティーでどうにかなる状況じゃありませんよ?
思いつつも、とりあえず僕らは適当に椅子に座って、アル王女の話を聞く。
「まず、先に言っておくがエルフの里で話したことを反故にするつもりはない。私はこれから5種族の代表会議を開くつもりだ。
もちろん、私自身の呪いと、パドの母親の呪いも解く」
いやいや、だってさぁ……
僕がなんと言ったものかと思っていると、ルアレさんが先に発言した。
「わかりませんね。人族の長とは国王のことでしょう? 王位を拒否して代表会議開催が叶いますか?」
「むしろ、私が王位に就くと叶わないのだよ」
意味が分からん。
「私が王位を継げば、まず諸侯連立が黙っていない。5種族会議どころか、人族同士での内戦だ。それこそ、300年前の愚王の時代のように、大陸中が血で染められるだろう。
他の種族との会議など、とても無理だ」
いやいやいや、いまさらそんなことを言われてもね。
あきれるというか、困惑するというか、僕らは唖然となってしまう。
「だが、ホーレリオが国王になるならば、諸侯連立としても妥協できる範囲だろう。あいつも諸侯連立盟主の血筋だからな」
それはそうかもしれないけどさぁ。
僕と同じことを思ったのか、ルアレさんが言う。
「それでは、結局テキルース王子が王位を継いだ場合と同じことなのでは?」
だが、アル王女は首を横に振る。
「ホーレリオはテキルースとは違うだろう。アイツは愚かしいまでの平和主義者だ。火薬の武器転用など嫌悪しかしないだろうし、5種族の会議も肯定するだろう。
というよりも、肯定すると明言した」
うーん。
「我々の目的は私が王位につくことではない。人族と亜人種の話し合いの場を作ることだ。その為にはむしろ、王位などホーレリオにくれてやったほうがいい。王になったら王宮から動けんしな」
言っていることはわからなくはない。
確かに、僕もホーレリオ王子個人にはそこまで思うところはない。
少し会話した感じだと、『普通にいい人』といった王子だ。
――だが。
「そう上手くいきますか? ホーレリオ王子が貴方の思うままに動くとでも?」
そういうルアレさんの懸念は当たり前だ。
「ホーレリオの配下にレイクをつける。どのみちあいつにも、私にも細かい政治などできんからな。その上で、私はこれからドワーフや獣人と渡りをつけるために動く。まずは、リラやパドと共に各地の獣人の里をまわる」
いや、ちょっと待って。
僕は思わず叫んだ。
「アル王女、分かっているんですか、リラは獣人達にとって禁忌の……」
「その禁忌を否定することも、今回の旅の目的だ」
ぴしゃりと言うアル王女。
「もちろん、リラが禁忌に正面から向き合う覚悟があるならばだがな」
その言葉に、リラは口ごもる。
「わたしは……」
リラにとって、禁忌の子どもとして里で父親を殺されたことは、トラウマ級のできごとだったはずだ。
「お前にとって、それが辛いことであるのは分かっている。だから無理強いはしない。だが、私はお前に、人族と獣人の――いや、5種族の架け橋になってほしいと思っている。
人族と獣人のハーフであるお前に、な」
リラはあきらかに迷っている。
アル王女の提案を肯定する気持ちと、しかしやはり怯える気持ちと、その間で苛まれている様子だ。
僕はリラを庇うように言った。
「アル王女、そんなことを言って、獣人にリラが殺されたらどうするんですか!? あいつらは、リラのお父さんを殺して、僕らを崖に追い詰めて……」
「ならば、お前がリラを護ればいい。それとも、お前はリラを護る自信がないのか?」
「それはっ……」
ぼくは口ごもる。
アル王女の言い分は分かる。
5種族の会議を開くにあたって、ハーフのリラは確かに架け橋になりうる。あるいはバラヌもそうかもしれない。
だけど、あまりにもリラに負担が大きすぎる提案だ。
僕とリラが押し黙っていると、ピッケが口を開いた。
「あのさぁ、それで、
ピッケの口調はいつも通りだが、目は笑っていない。
「アル、あんたが王位をホーレリオとかいうヤツに譲った理由は分かったよ。それが正しいかどうかは知らないけど、それこそ人族の間の政治判断に口を挟みはしないさ。だけどねぇ……」
ピッケはそこまで言って目を細める。
「だとしても、あんたは自分が王位に就くために力を貸してほしいとオイラ達に言ったんだ。だけど、その実、本心では違うことを考えていましたって話だろ? つまり、アンタはオイラ達を欺したんだよ。
その選択の是非とは別問題として、龍とエルフを欺したケジメ、どう取るつもりなんだい?」
ピッケが怒るのも無理はない。
実際、今回の件で龍族とエルフは相当アル王女に協力している。
僕は3日前のこと――戦いの翌日のことを思い出すのだった。
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