【断章4】 女騎士の生き様(後編)
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(キラーリア・ミ・スタンレード/三人称)
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レイク・ブルテによって、後に
その人が自分の
キラーリアにとって、剣術とは自分の全てだ。
他に何の能力もなく、剣術のみに特化した才能を持つ彼女にとって、それは当然の認識だった。
それ故に。
キラーリアは『闇』という存在がどうにも憎く感じる。
アラブシ・カ・ミランテの小屋で、初めて『闇』に躍りかかったときの手応えのなさ。
剣術をどんなに磨いても勝ち目がないという、あらゆる意味で彼女にとっての天敵であり、理不尽な存在。
理不尽というならば、パドやリラもだ。
生まれながらに200倍の力を持つというパドは、彼女の剣術修行など意味がないといわんばかりの破壊力を発揮してみせる。
パド以上に戦闘訓練などしていないリラが、浄化の炎で『闇』を祓う。
剣術をいくら極めても対抗できない理不尽がそこにはあった。
正直なところ、キラーリアにはリリィが力を欲し『闇』となった気持ちが理解できる。
努力だけではどうにもならない天性の壁。その現実に直面したとき、人はいかなる裏技でも使いたくなるものだ。
同時に、キルース・ミルキアス・レオノル王妃が『闇』と化した理由もなんとなく分かる。
彼女の父もまた、謀殺の疑いがある。キラーリアは剣を振るい、アルのそばにいることでその現実と戦うことが出来た。
だが、キルース王妃は戦う術を持たなかった。
自分の一人息子を殺されて、耐えて耐えて、そのあげく感情が暴走したのだろう。
だが、だとしても。
『闇』と化し、人々を蹂躙する存在を騎士として見逃すわけにはいかない。
『闇』は騎士であり剣士であるキラーリアにとって理不尽な存在だ。
だが、どんなに理不尽な相手でも、自分は戦わねばならない。
そうでなければ、自分の価値はそれこそなくなってしまう。
自分には『闇』と化したキルース王妃を倒す力はない。
だから、その力を持つパドを教皇に託し、リラを背負って立ち上がった。
「リラ、全ての攻撃はかわしてみせる。君は浄化の炎をひたすらヤツに向けて放て」
リラと自分の即席コンビで厳密な連携などできない。ゆえにキラーリアがリラに与えた指示はそれだけだった。
眼前では、キラーリアの
アルの拳は、自分のそれと違って、多少なりとも『闇』に効果があるらしい。
理屈は知らない。教皇かレイクに聞けば何らかの解説をしてくれるだろうが、そんな余裕はない。
今はまず、アルを援護し、パドを救うまでの時間稼ぎをしなければ。
リラが浄化の炎を吐いた。
『彼女』とアルを巻き込む。もちろん、人間であるアルには浄化の炎は無効だという前提があってこその行動だ。
浄化の炎は『彼女』に多少のダメージを与えたようだ。だが、それは『多少』でしかない。
やはり、人型の『闇』に対しては、パドの漆黒の刃でないと致命傷にはならないらしい。
その時だった。
背後で暖かい光があふれかえった。
リラが浄化の炎を止め、叫ぶ。
「教皇さん? この光は、まさか、お師匠様と同じ……命を燃やしているの!?」
――命を燃やす。
魔法に疎いキラーリアには詳細は分からない。
だが、アラブシ・カ・ミランテと同じだとしたら。
あのとき、彼女が命を燃やした結果どうなったか。
教皇は言った。自分の魔法ではパドを救えないと。
だが、その後、前言を翻すようにパドを救ってみせると言った。
それは、つまり自分の魔力だけでは救えないが、命すら捨てれば助けられるという意味だったのか?
リラが震える声で言う。
「キラーリアさん、どうしよう。教皇さん、死んじゃうかも」
リラにとって、パドがいかに大切な存在であっても、誰かの命を犠牲にするような助けかたを望んでいるわけではないのだろう。
『彼女』の指がキラーリアとリラを襲う。キラーリアはギリギリのところで躱す。だが、反撃はできない。自分の剣も拳も、ヤツには通じない。
アルが横から突っ込み、拳を振るう。手応えこそありそうだが、『彼女』にとってはほとんどダメージになっていない様子だ。
やはり、現状リラの浄化の炎しか対抗手段がない。
「今、我々に出来ることは『闇』を抑えることだけだ」
「でも……」
戸惑うリラ。それはそうだろう。だが、今は彼女の浄化の力が必要だ。
「リラ、アル殿下も教皇猊下もパドも、命を賭けている。命を賭けている相手に報いるには、我々も命を賭けねばならない」
「……そうね」
リラは再び口を開き、『彼女』に浄化の炎を放った。
『彼女』にとって、浄化の炎は致命傷でこそないものの、それなりに効果がある様子だ。
アルや教皇ではなく、こちらをまず狙って、10本の指が
ならば、自分の役目はそれを全て躱すこと。
剣術は通じなくても、自分の体術なら可能だと信じて。
それが、今の自分の役目だ。
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