【番外編】それぞれの物語
【番外編20】心弱き子ども達の決意(1) 稔、リラ、アルの場合
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(その1:桜稔の場合)
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結局僕は、勇太お兄ちゃんがうらやましかったんだと思う。
小学校に入る前に病気のお兄ちゃんのことを教えられて。
それまで僕だけのものだと思っていたお父さんやお母さんを、お兄ちゃんに取られたような気分になって。
だから、勉強や運動を頑張った。
お父さんやお母さんを安心させるためにやっていると思っていたし、それも嘘じゃない。
だけど、本当は2人を僕に振り向かせたかったのだ。
お兄ちゃんよりも僕を見てと、そんな恥ずかしい我儘な気持ちだったと、今なら分かる。
お兄ちゃんが亡くなって、お父さんとお母さんと僕の3人家族になったとき、僕はようやく自分のそんな浅ましい感情に気がついた。
自分がなんて子どもっぽい意地を張っていたのかと泣きたくなった。
だから、僕は決意した。
「お父さん、お母さん、お願いがあります」
お兄ちゃんが死んで、半月後。
僕はお父さんとお母さんの前に座って言った。
改まった様子の僕に、2人が少し驚く。
「XX高校附属中学を受験したいんです。お兄ちゃんの治療でお金が大変なのは分かっています。受験勉強は自分でやります。だから、入学金と授業料をお願いします」
僕の言葉に両親は顔を見合わせる。僕はさらに続けた。
「僕は、将来医者になります。20年後、勇太お兄ちゃんと同じような子を助けられるようになるために。そのための第一歩として、受験しようと思います」
僕の言葉に、2人は涙を流して頷いてくれた。
僕は勇太お兄ちゃんに何もしてあげられなかった。
その代わりに僕はくだらない意地を張って両親を困らせた。
そんな僕を、両親は優しく抱きしめてくれた。
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(リラの場合)
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私はずっと世の中を恨んでいた。
私自身を禁忌と呼ぶこの世界が憎かった。
禁忌の子として私を蔑んだ人族の祖父母が嫌いだった。
私の半身である人族を忌避する獣人達が恐かった。
子どもの苦労も考えずに私を生んだ両親のことも、やっぱり少し恨んでいた。
そしてなにより、そんな風にしか考えられない自分が嫌で嫌で仕方がなかった。
だからあの時。
ラクルス村近くでブルフ小父さん達に追いつかれたとき。
私は本当に、心の底から死んでもいいと思ったのだ。
だけど。
パドが私を助けてくれた。
獣人達からだけじゃない。
世の中全てが恨めしかった私に、好きだと言えるモノをくれた。
私の心を闇の中から引っ張り出してくれた。
そして、お師匠様が生きる力を授けてくれた。
命を賭けて、私の考えを矯正してくれた。
私の命は、パドとお師匠様にもらったものだ。
だから無駄にはできない。
私は生きる。
生きて、生きて、幸せになってみせる。
世界が私を禁忌と呼ぶならば、世界を変えよう。
人族が私を忌避するなら、人族が認めざるをえないほどの人物になって見せよう。
獣人達が私を許さないというなら、それに負けない力を身につけよう。
パドとお師匠様が、私にその力と機会をくれた。
私は『闇の獣』に襲われるエルフの前に立つ。
「早く避難して」
そう告げて、私は浄化の炎をで『闇の獣』を撃退する。
人族と、獣人と、エルフと、龍族と、あるいはドワーフも。
それぞれが互いに色々な感情を持っているだろうけど、私はそのどれもをつなぐ。
それは人族と獣人のハーフである私がやるべきことだ。
私の一生をかけてそれをなす。
私と同じように生まれた子が禁忌の子と呼ばれないように。
いつの日か、全ての種族が一緒に暮らし、家族を作る世界が来るように。
私は、パドとお師匠様にもらった命をそういう風に使いたいと思う。
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(アルの場合)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
幼い私にとって、大人の男とは醜いものだった。
幼い私にとって、大人の女とは汚いものだった。
幼い私にとって、私という存在はゴミくずだった。
男と女の1番醜いところが露呈する街で、幼い私は全ての人間を嫌悪していた。
だからこそ、盗賊という本来ならば卑下すべき存在が、むしろ自分に合っているとすら思えた。
剣を振るい、酒と肉を喰らい、金持ち相手に颯爽と戦う
ゴミくず同然の自分を蔑む気持ちから、刹那的でも逃避できたから。
自分が実は国王の隠し子だなどと言われても、全くピンとこない。
諸侯連立と王家の確執を聞いても、ならば気にくわないヤツラを斬り殺せば
いのにとしか思えなかった。
私の父だという国王は、絶大な権力を持ちながら何故そうしないのか、サッパリ理解できなかった。
そんな私に知識をさずけてくれたのがレイクという男だ。
最初はつまらない貧相な小男だと思ったが、私がどんなに脅しても私に知恵を与え続けた。
彼のおかげで、気に入らないモノを斬ればいいという私の生き方が、どれだけちっぽけな思想に基づくものだったか、何となくだが分かるようになった。
リリィは私を慕ってくれた。
我儘で五月蠅くて甘ちゃんのどうしょうもない娘だが、それでも私のことを好きだとハッキリ言ってくれた。
そういえば、私は男にも女にも親にも、あんなにハッキリ好意を向けられたことはなかった。
パドという少年を初めて見たとき、まるで昔の自分を見ているかのようだった。
何もかもを恐れ、嘆き、それでいて無茶苦茶に戦う。
性格も考え方も私とはまるで違うのに、その芯の部分は同じだと思った。
彼はつまり、自分に自信が無いのを必死に隠していたのだ。
昔の私と同じように。
それでも、彼は昔の私よりは頭が良かった。
アラブシ・カ・ミランテの言葉と命を受け取り、少しでも前に進もうと努力を重ねているのが分かる。
そのパドが言った。
「『闇』はリリィでした。ごめんなさい。『彼女』を助ける方法は分からなくて、僕は……」
不思議と疑う気にはなれなかった。
パドがそう言うなら、そうなのだろうなと思っただけだ。
どんな形であれ、自分を慕ってくれたリリィをパドは殺した。
彼女を悼む気持ちはあったが、パドを恨む気持ちは沸かなかった。
彼がリリィを悼んでいると伝わってきたからだろうか。
むしろ、この子どもを護らなければと思い、アラブシ・カ・ミランテができなかった分も彼を導かなければならないと決意した。
だから、私は言った。
彼にやるべき事を教えるために。
「今はリラを助けるときだ」
彼は力強く頷いた。
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