3

 一同は、薄気味悪そうな顔を見合わせる。

 イッパチが、杏萄絽偉童アンドロイドの人工皮膚を真っ青にさせ、視線をあちこち彷徨わせながら、呟いた。

「今の笑い声は、なんとなく若旦那のお声に似ているような……」

 もう一度、世之介は笑い声を上げた。茜は怒ったような表情になる。

「世之介なの? 悪い冗談は止しなさい! どこに隠れているのよ?」

 言われて世之介は戸惑った。さて、自分は、どこにいるのか? 微小機械に呑み込まれた後、どうにもさっぱり、自分の身体を認識できていない。

 世之介はどうにかして、自分の姿を一同に見せたいという欲求に駆られた。微小機械は世之介の欲求に応えるべく、あらゆる接続を試した。


「わっ!」

 大声を発し、イッパチがぴょんと飛び上がった。へたへたと腰を抜かし、震える両手を合わせて叫び声を上げる。

「若旦那! 迷わず成仏して下さいよう!」

 何事かと、全員イッパチの見詰める方向を見る。

「世之介さん……」

 光右衛門が驚きに目を見開いた。

 助三郎が慎重に声を掛ける。

「もしや、世之介さんなのですか?」

 世之介は頷き、自分の身体を見下ろした。手の平を開き、まじまじと観察する。

「妙だ……透き通っている……」

 イッパチが泣き声を上げた。

「それどころじゃござんせん! 若旦那、お足が見えねえ……。こりゃ、てっきり成仏できずに、迷ってらっしゃるんでげしょ?」

 世之介の身体は透き通り、足下はふっと薄くなって、地面に消えている。とんと、幽霊である。

 助三郎が目を光らせ、口を開いた。

「どうやら立体映像ホログラフィを送っているようだ。しかし距離が遠く、はっきりとした映像にはなっていない」

 世之介は、にやっと笑った。それなら判る! 自分の立場がようやくハッキリし、落ち着きを取り戻した。


「どうも、妙な具合になっちまった。実は……」と世之介は微小機械に呑まれた後の経験を、詳しく語った。

 光右衛門は大きく頷いた。

「さもあらん! 世之介さんのガクランと、番長星の微小機械が、影響し合ったのでしょう。では、世之介さんは、ご無事なんですな?」

 世之介は肩を竦める。

「無事かどうか、良く判らない。なにしろ、自分が今、どうなっているのか、さっぱり判っていないんだ……」

 その時、格乃進が空を振り仰ぎ、緊張した声を上げた。

「皆、気をつけろ!」

 驚きに全員が格乃進の視線を追う。世之介は即座に、格乃進の警告を理解した。

【リーゼント山】の山頂から、どろどろとした微小機械の群れが、後から後から、まるで鍋から吹き零れる泡のように、盛り上がってくる。すでに山肌を伝い、全員の立っている場所へと近づいてきた。

 穿った出口に戻ろうと一瞬、穴の方向を見た助三郎であったが、すぐ断念した声を上げる。

「駄目だ! こっちからも溢れてくる!」

 助三郎の言葉どおり、穴の奥深くから、ぬらぬらとした黒い光沢が迫ってきていた。光右衛門は叫んだ。

「逃げるのです!」

 さっと助三郎と、格乃進は、各々光右衛門ら一同を抱きかかえ、微小機械から逃れるため走り出した。

 しかし全速力は出せない。抱きかかえたまま高速で動くと、抱きかかえた人間が、衝撃で酷い怪我、あるいは死亡すら懸念されるからだ。

 後には、狂送団の首領と、母親がぽつんと残されてしまった。首領は近づいてくる真っ黒な固まりを見詰め、ガタガタと震え出し、母親の巨体に取りすがった。

「ママ! ど、どうしよう……!」

 ぐわっ、と大津波のように真っ黒な微小機械が襲い掛かる。

 母親は必死に悲鳴を堪えていた。

 だが、首領は恥も外聞もあらばこそ、全身で悲鳴を上げ、喚いていた。どどっと殺到する微小機械が、二人の全身を呑み込んでいく。

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