5
〝支配頭脳〟に面会が叶い、光右衛門は次々と質問を投げかけ、工場を後に一同は再び二輪車の旅を続けた。
すっかり時刻は夕刻に近づき、空は緑色に染まっている。緑色の夕空など、世之介は想像もしたこともなかった。
光右衛門は格乃進の操縦する二輪車の側車に収まり、ずっと押し黙ったまま、何事か真剣に考え込んでいる。
世之介は光右衛門の側に二輪車を近づけ、声を掛けた。
「なあ、爺さん……じゃねえ、光右衛門さん。そろそろ教えてくれてもいいだろう。何、深刻になってんだよ?」
光右衛門は「はっ」と顔を挙げ、目を瞬かせた。
「いや、すまん。つい、ぼんやりしておったようじゃ。あの工場がなぜ、気になるのか、教えて進ぜる」
咳払いして、光右衛門は説明を始めた。
「工場では微小機械による生産が行われていることは、目にしておるな。実は、微小機械を用いた生産技術は、地球でも以前に実施されたことがあったのじゃが、今は使用されておらぬ。地球では、とっくに禁じられている技術なのじゃよ」
話を聞いていた助三郎が、驚いたような声を上げる。
「それは、初耳です。わたしは工場で初めて目にしたものですから、地球でも行われたとは知りませんでした。しかし、なぜ禁じられておるのですか?」
光右衛門は頷き、目を細めた。
「微小機械は数万分の一匁以下という、分子の小ささの機械です。一つ一つの部品は単純な動作だけするのですが、数億、いや数兆という単位で集まり、あらゆる作業を実現するのです。しかし、重大な欠点がある! 微小機械を制御する
「爆嘯? そりゃ、何だい」
世之介は問い返した。
「微小機械の、際限ない増殖です! 周りのありとあらゆる物質を食いつくし、おのれを増殖させ、あっという間に覆いつくす。実際、微小機械の爆嘯で、一つの惑星が丸ごと廃墟になった実例すらあります。番長星で使用されている微小機械は、ずっと同じ製品しか生産していないため、奇跡的に爆嘯は免れてきました。が、もしも、新たな製品を微小機械に生産させようと企む者がいたなら、爆嘯の危険は倍増します!」
格乃進は、険しい顔つきになった。
「新たな製品? それは、もしかして」
光右衛門は大きく頷いた。
「そうです! あの風祭なる賽博格! この番長星で、最高度の技術が必要とされる賽博格がなぜ実現したのか不思議でしたが、微小機械が存在するなら、頷けます。微小機械どもに、賽博格処理を行うよう命令を組んだ者がいるのでしょう。戦闘賽博格が存在するなら、もっと進んだ技術の武器を微小機械に生産させようとするかもしれません。わしはこの番長星に、幕府転覆を企む悪人が密かに潜入しているのではと、疑っております」
それまで黙って光右衛門の長口舌を聞いていたイッパチが呟いた。
「そりゃ、
光右衛門は暗い顔になった。
「【ツッパリ・ランド】に早く到着しないと……。手遅れにならなければ良いが!」
世之介は前方を見た。
真っ直ぐに続く道路の真ん中に、横断幕が掛かっている。
横断幕には「ここより暴走半島」とあった。
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