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 二輪車に跨り、世之介は一杯に梶棒アクセルを握りしめ、動力機関エンジンを全開にした。

 ばるるるるん! けたたましい騒音が、突き出した排気管マフラーから響き渡る。

 本来、番長星で使用されている二輪車も、四輪車も、燃料を燃焼させる形式ではないから、排気音が出るわけがない。

 だが、まるで音がしないというのは気分が出ないとかで、無理矢理うるさい人工的な音を立てる装置を内蔵している。

 世之介は辺りを圧する音に、うっとりとなっていた。なんだか、自分が一段偉くなった気分である。

 背後の仲間の二輪車を振り返って「行くぜ!」と叫ぶ。二輪車に跨る助三郎と、格乃進は無言で頷いた。

 蹴飛ばされるように世之介の二輪車は【集会所】の駐車場から舗装路へと飛び出した。

 茜の説明によると、目的地の【ツッパリ・ランド】は目の前の道路を真っ直ぐ、どこまでも進むと、辿り着くらしい。茜は世之介の隣の車線に自分の二輪車を並んで併走してきた。

 ぴったり横に近づくと、茜は世之介にさかんに何か話し掛ける。

「スイッチを……して……が……できる……」

 茜の言葉は風きり音のため、途切れ途切れである。把手ハンドルの部品をしきりに指さしている。

 世之介は自分の二輪車の把手を見詰めた。

 中央の目立つところに、スイッチらしきものが一つ、ある。どうやら、茜の指さしていたのは、これらしい。世之介は片手を把手から離し、スイッチを押した。

「ああ、良かった! やっとちゃんと話せるようになったわね!」

 途端に、今までびゅうびゅう音を立てていた風きり音がぴたりと止まり、隣の車線で二輪車を走らせている茜の言葉が、はっきりと聞こえてきた。

 世之介は最初に番長星に到着して、茜の二輪車の後ろに乗せてもらったとき、やはり同じように風きり音が全然、聞こえていなかったことを思い出した。

「なんで騒音が止まったんだ?」

 世之介の背後から、格乃進が声を掛けてきた。

「二輪車の周りを、超音波の障壁シールドが取り巻いている。同時に、われわれの声も、自動的に無線機で交信できるようになっている。だから、お互いの声が、はっきりと聞き取れるのだ」

 成る程、と世之介は感心した。

 と、前方から、工事作業車がゆっくりとした速度でやってくるのに気付く。運転しているのは総て傀儡人ロボットである。

 作業車は世之介の目の前を通り過ぎた。世之介は側鏡サイド・ミラーで作業車が【集会所】に向かっているのを認めた。

「ありゃ、なんだい?」

 茜に叫ぶと、すぐ答が返ってくる。

「あんたらが空けた壁の穴を、修理に来たのよ。珍しくもないわ」

 茜は無関心であった。世之介は密かに頷いた。そうか、番長星ではあらゆる修理や、修繕は、傀儡人が担っているのだろう。

 辺りを注意深く眺め渡すと、あちこちに傀儡人の姿が散見される。畑の真ん中で農作業している傀儡人。道の両側に並んでいる様々な店先で、人間の店員に混じって立ち働いている傀儡人……。

 舗装路を修復している傀儡人もいた。道路が、常に新品同様になっているのも、傀儡人が倦まず弛まず、修復作業を続けているせいだ。

 番長星は傀儡人によって成り立っている……。

 世之介はふと、奇妙な考えを弄ぶ自分に気付いていた。

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