5

「どうした、助三郎。物凄い音が聞こえたが。何かあったのか?」

 助三郎の背後から格乃進が現れる。

 格乃進は、助三郎と対峙する世之介を認め、立ち竦んだ。

「あんた、世之介さん……だろうな?」

 ガクランの襟が世之介の顔を半ば覆っているため、一瞬、誰か判らなかったのだろう。助三郎は世之介を見詰めたまま、答えた。

「ああ、間違いなく世之介さんだ。だが、気をつけろ! 今の世之介さんは、普通じゃない!」

「何?」

 尋ねかける格乃進に、世之介は猛然と突進した。一跳びで、格乃進に体当たりを食らわす。

 爆発音に似た衝撃音が響き渡り、格乃進の身体は十間近く吹っ飛んだ。背後の壁にぶち当たると、格乃進の身体は壁に大きな罅割れを作ってめり込む。

 格乃進は、ばらばらと壁の破片を飛び散らかせながら立ち上がる。格乃進の顔には呆然とした驚きが浮かんでいた。

 助三郎は、さっと身構えた。

 ──格乃進! 加速しろっ!

 助三郎は圧縮言語で格乃進に話し掛ける。賽博格同士が戦闘の間に使用する、高速言語である。

 数分の一秒という一瞬の間に、言葉を圧縮して会話する。当然、超音波で、普通の人間には聞き取れない賽博格専用の会話方法である。

 が、世之介には、はっきりと聞き取れていた。

 ──なぜだ、助三郎? 加速状態になる理由は?

 格乃進が高速の会話で尋ねかける。

 ──さっきの体当たりを受け止めたろう? あんなの、普通の人間にできることか?

 助三郎は、すでに加速状態に入っていた。その助三郎に対し、世之介は攻撃を加えている。

 完全装甲された世之介の拳は、ほとんど砲弾の威力を秘めていた。固く握りしめられた拳が助三郎の身体にめり込んで、助三郎は衝撃に耐え切れず、後方に引っくり返った。

 ──助三郎、大事無いか?

 格乃進が心配そうな声を上げる。

 ──心配するな。多少、応えるが、機能には異常はない。が、自分の賽博格体をあまり過信するな!

 助三郎は立ち上がり、油断なく身構える。

 格乃進は頷いた。

 ──ああ、さっきの正拳突きは只事じゃないな! しかし、あれほどの打撃を与えて、世之介さんの身体には何もないのか?

 ──判らん。世之介さんの着ている学生服が変化して、今こうして見ている鎧のような形になった。多分、戦闘用の形態だろう。

 格乃進の口調に、憂慮が滲んだ。

 ──どうする、助三郎。このまま世之介さんを好き勝手にさせておくのか? 何があったか知らないが、これは異常だ!

 助三郎は頷く。

 ──ああ、危険だ! 俺たちだけじゃなく、世之介さんにとっても危険だと言える。何しろ、俺たち賽博格と互角に渡り合えるほどだからな。しかし、このままでは埒があかない。少し、お相手をしてみようじゃないか!

 格乃進も賛同した。

 ──そうだな。だが、あまり調子に乗るなよ。何しろ世之介さんは生身の人間だ。それを忘れるな!

 ──判っている……! だが、この店内では狭すぎる。何とか外へ誘い出そう!

 ──よし! 俺が出口を開ける!

 格乃進は叫ぶと、一番外に近い壁に向かって、まっしぐらに突き進んだ。格乃進は両手を水車のように回転させ、壁に向かって機関銃のごとく拳を叩き込む。

 一瞬にして壁の真ん中に無数の窪みが出現した。格乃進は足を挙げ、賽博格の力を最大に解放して壁に大穴を開ける。

 加速状態にあるため、壁が破壊される音は聞こえない。破片が空中にゆっくりと漂う中を、格乃進は外へと身体を投げ出す。それを見て、助三郎は世之介を誘い込むように後じさる。

 助三郎の顔に、驚きが弾けた。

 素早く格乃進を振り返り、声を掛ける。

 ──格乃進、気をつけろ! 世之介さんは俺たち賽博格の速度に従いてきているぞ!

 ──何だとっ!

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