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「信じられない!」

 世之介の告白に、茜は開口一番、吐き捨てるように叫んだ。

「世之介さんとあたしが出会ったのは、二日前のことよ! それで、もうあたしたちが恋人同士? 馬っ鹿じゃない? そんなこと、本気で考えているの?」

 頬は赤らみ、目は一杯に見開き、怒りを抑えかねるかのように小部屋を歩き回る。

「きっ!」と茜は鋭く世之介を睨みつけた。

「で、あんたは、どうなのよっ?」

 今までの呼びかけの「世之介さん」が「あんた」に戻っている。

 世之介は、びくりと飛び上がった。

「あ、あたしですか……。あたしは、その、つまり……」

 かーっ、と頭に血が昇って、へどもどと上手く答えられない。ごくりと唾を呑みこみ、言い訳を開始する。

「イッパチって奴は、別名『早飲み込みのイッパチ』と呼ばれるほどで、自分でこうだと思い込むと、他人の意見なんかお構いなしなんです……。今回も同じことで……。まことに茜さんにはご迷惑をお掛けして、汗顔のいたりです」

 深々と頭を下げると、茜は「ほっ」と息を吐き、どすんと勢い良く床に座り込んだ。頭を片手で支え、眉間に皴寄せる。ちらり、と世之介を見上げた。

「それで、世之介さんは、どうなの?」

 茜はぼそり、と呟くように声を掛けてきた。

「どう……とは、何がで御座いますか?」

「知らないっ!」

 ぷいっ、と横を向く。

 なぜか世之介の顔に汗がダラダラと噴出した。異常に気まずい沈黙が流れる。

 おろおろと部屋の中を見回す世之介の視線が、衣紋掛けに吊るされた〝伝説のガクラン〟に釘付けになった。

 一旦、視線が留まると、もう動かせない。

 世之介の視界一杯に、真っ赤なガクランが広がっている。じりじりと世之介は、一歩、また一歩とガクランに近づいていく。

 そろそろと腕が上がり、指先がガクランに吸い寄せられた。

 駄目だ! 触ったりしたら、またあの〝意思〟に取り込まれる。

 必死に自分に言い聞かせるのだが、指先は磁力のようなガクランの吸引力に捉われ、何としても引き戻せない。

 背後で茜が顔を挙げ、世之介の背中を見詰めている気配を感じている。

「世之介さん……」

 茜も立ち上がった。

 遂に世之介の指先がガクランの布地に触れた!

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