番長星への墜落
1
「それでは、唯今より客室の非常用動力を入れ、移動を開始します」
格乃進が宣告した。操作卓に向かい、ごつい指先で、幾つもの
動いていく感覚はなかった。客室の航行装置は、重力制御技術を使って、空間それ自体に重力的な傾斜を作り出すものである。従って、客室全体に均等に加速が加わるため、一切の反動などはないのだ。
しかし、客室の窓に見える宇宙空間には、劇的な変化が表れていた。窓の前方が進行方向で、一瞬にして星々は光行差現象によって青方偏移を起こし、赤い星は黄色に、白い星は青に、赤外線でしか見えない星は可視光線になって見え始める。もともと青白く光る星の光は、紫外線領域にずれこみ、見えなくなっていく。
星々は進行方向に集まっていき、目映い光を放っている。一瞬、集まった星々は強烈な光を放ち、世之介は
客室の窓が不意に真っ暗になった。紫外線領域の光が青方偏移でX線レベルまで波長が高まったため、乗客を保護するための
自動遮蔽が働いたのは、世之介が瞬きする一瞬のことであった。真っ暗になったと思ったら、すぐに窓の眺めは普通の、宇宙空間のものに変化した。
「到着しました」
格乃進が口を開いた。
ぎょっとなって、世之介は格乃進の四角い顔を見詰めた。
「もう? だって半光年も先だって、言ったじゃないか? 数を数える間もなかったくらいだよ」
格乃進は、にやっと笑った。
「亜光速で移動したのです。客室は、光速の99
格乃進の隣で、助三郎が操作卓の表示を覗き込んで感嘆の声を上げた。
「成る程! 客室に備えられている非常用動力の、ほとんどが消費されている。宇宙軍にいたころは、通常空間を亜光速で移動するなど、考えられなかったな。いや、良い経験をした!」
世之介は助三郎の呑気さに呆れた。ぎりぎりの選択だというのに、良い経験だとは、能天気な台詞である。
格乃進は、窓外に一際ぐんと大きく見える黄色い星を指差した。
「あれが、番長星の主星だ。もう番長星は目と鼻の先といっていい」
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