第155話 不法就労

 日の出屋は、外人さんが多く在籍している。


 中国人を中心に盛り付けで十人以上いた。中古のバスを買い、僕が早朝駅まで毎日迎えに行っていた。


 違法就労が騒がれていた時期だった。


 ある朝、パトカーが僕のいつも車を止める近くに駐車していた。兄に報告して乗せる駅を変えた。


 兄は危機感を持っていた。パスポートと個人証明書のコピーを急いで集めた。明らかに偽造と分かる物もある。個人証明書が無い者もいたが解雇した。前に働いていた魏はすでに辞めていない。


 それはある日突然訪れた。


 盛り付けが終わり時間は午前十時で、みんな一段落している時だった。


 「全員動かないで!」


 入国管理局の職員が二十人くらい、日の出屋の工場を取り囲んで大掛かりな捜査が始まった。警察もいた。


 大型バスが横付けされ、従業員八人が連れて行かれた。とっさに逃げた中国人が三名いたが行方不明になった。


 兄は危機一髪で逮捕を逃れた。不法就労の危機管理がもう少し遅れたらアウトだった。


 今はパスポートも個人証明書も精巧に出来ていてプロでも分かりづらいと言う。兄は警察に呼ばれ、次に見つけたら逮捕すると言われ帰って来た。


 四連休前の木曜日だった。一気に十一人抜けたのだ。


 中国人のリーダーもその中にいた。朝一番に工場へ入り、ライス担当で午後から洗い場で現場の仕事が終わるまで働いていた。日本人の三倍は仕事が出来た。


 兄がしばらくライス担当になった。


 盛り付けが悲惨だった。 


 配送メンバー総出でお弁当を作った。仕事を休んでいた姉も仕事に加わった。日の出屋最大の危機だったが僕達は踏ん張った。


 この件があって以降、外人の募集は不正防止の為、必ずハローワークを通す様にした。 


 一人、二人とメンバーが増えて来た。時給も良く食事つきだ。友が友を呼び抜けた穴は埋まった。


 ライスは兄が引き続き炊いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る