第80話 お気に入りのお店

 堀之内に入る場所に牛タン専門の店があった。


 店内はカウンター席に十人くらいと、四人がけの席が二つある。オープン時間は、午後十七時だ。


 店の名は「八たん」。


 僕は、営業時間ジャストに店に入った。店は木を基調として落ち着いた感じだ。清潔感がある女将さんが、一人で仕込みをしていた。僕は店に入ると、カウンターの隅に腰かけた。


 牛タン焼きとビールを頼んだ。炭火焼の良い匂いがする。牛タンは、僕が今までに見た事が無い肉質で輝いて見えた。七味を少しかけて食べたが、柔らかくて美味い。


 女将さんはにこやかに、そして静かに仕込みを続けている。


 僕は無言で、今日の日の出屋の出来事を振り返っていた。野川が辞めた後、店長のポジションは空いたままだ。後釜を作るのが僕の仕事だ。今のメンバーに店長の資質がある者はいない。


 恐らくみんな潰れてしまうだろう。新しく入って来る人材に期待するしかない。

静かな店内に、炭の焼ける音がパチパチ聞こえた。


 〆に、麦ご飯とテールスープを頼んだ。麦ご飯をおかわりすると、牛タンに添えている手作りのお新香をサービスしてくれた。


 僕は、週末になると八たんへ行った。煮込み、トマトサラダ、冷奴、ねぎししとう焼き、とろろ、季節によりぎんなんもある。


 メニューの数は少ないがどれもうまかった。ここの女将さんは、三十代で仙台の牛タン屋で修行して今の場所で店を始めたそうだ。

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