第63話 リハビリ
僕が引いてしまった男性は、林さんと言った。
山場を越え意識もあると言う。右太腿を骨折して全治六か月だ。
僕はすぐにお見舞いに行ったが、集中治療室にいて面会謝絶だと言う。僕は、毎日病院に顔を出した。
林さんのご両親は、九州で大きな商いをしていると言う。林さんは家を継ぐのが嫌で、家出をして川崎に来たらしい。消息不明の息子が見つかったと思ったら、大けがをしているとの事で、父親はかなり動揺していた。
僕の親父が、林さんの父親と電話をした時「お前の息子も、俺の息子同様にしてやるから覚悟しておけ」と脅されたらしい。話を聞くとヤクザも係っているらしい。
一か月もすると面会を許された。
林さんはとても優しく好青年だった。事故の時信号無視した事を認め、警察に「僕に落ち度がありました」と言った。僕は保険屋に全て任せ、日の出屋の業務に戻った。
太腿骨折のリハビリに付き合った事があるが、余りの痛みに気絶しそうだと言っていた。無様な姿を見せたく無いと、基本的に一人でリハビリしていた。
この事故は、新聞の川崎欄に出ていた。二十歳の誕生日を終えた僕は、実名で出ていて知り合いが「昇君、新聞見たよ。大変だったな」と声をかけられた。
反則切符は切られず、罰金が七万五千円来た。林さんの証言で、僕は反則を免れたのだ。半年後、林さんは九州へ帰ると言う。
帰りの日に、僕は車で羽田空港まで送った。松葉杖を突き不便そうに歩いていた。
林さんは「ありがとう、親の元へ帰る決心がついたよ」と言い、握手を求めた。僕は握手をすると、涙で声にならなかった。
林さんの飛行機が飛び立ち、見えなくなるまで見送った。
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