第45話 商いのいろは

 この頃の日の出屋支店は、一日の売り上げが一万円を切る事が多かった。平均して六千円くらいだ。


 こんな売り上げで商売になるのかといつも疑問だった。人件費は僕に払う二万円だけだ。


僕はこの二万円で、昼の学食と飲み物に使っていた。


 僕に商売のいろはは全く分からなかった。サラリーマンの方が稼げると、いつも思っていた。お金の管理は親父がやっている。赤字なのか、少しでも黒字なのかも検討が付かない。


 僕は親父の言う通り、ほか弁の販売をしながら回収された弁当箱を、黙々と洗い続けるしか生きる術が無かった。


 兄は高校を卒業して本店で働いていたが、何も情報が入って来ず、どうしているのか分からなかった。


 支店は、人手不足という理由で昼間の営業を止めていた。


 「サラリーマンなんてつまらない。少しくらい貧乏しても、自分で商売した方が人生何倍も楽しい。人間は食べ無ければ生きられない絶対に必要なモノ。だから俺は食べ物を商売として選んだ。昇も商売人になれ。他人に使われるなんて、こんなつまらない事は無いんだぞ」


酒に酔うと親父は、僕に同じ話を繰り返し語った。

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