第28話 宅配弁当

 この頃から、親父はタクシー会社へのうなぎと牛丼の宅配置き弁当を始めた。 


 本店で、うな重と牛丼を作り、タクシー会社にうな重五個、牛丼五個くらいを休憩室に置き、小さな金庫型の貯金箱にお金を入れて貰うシステムを親父が作った。


一食四百円。


 集金すると、お金がきちんと入っている事が無かった。ただ食いするお客さんが多く、お金を入れる振りをして、四十円で食べるお客さんもいた。


 ただ食い防止の為に、一番入金率の悪いタクシー会社へ、妹の美沙が弁当の番をした時が有ったが、タクシーの運ちゃんに胸を触られた、と泣いて帰ってきた事があった。美沙は怖くて行きたくないと言い、弁当の番をする事を諦めた。


 夏場になると、うな重も牛丼も腐り易くなった。回収すると、残ったうな重は糸をひいていた。


 配達するタクシー会社は七か所になっていたが、毎日うな重や牛丼を食べるお客さんなどいる筈もなく、もう飽きたと言う声が多くなっていた。  


 日替わりの幕の内弁当を、提供して欲しいとリクエストが出た。


 親父は、うな重と牛丼の販売を中止して、幕の内一本に製造を絞った。


 新しい、赤いツーウエイのプラスチックの様な弁当箱を購入して一食四百円、一日七十食の製造となった。メニューは、親父が考え、調理と盛り付けはパートを使った。

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