4-3

 休息と作戦の打ち合わせを終え、アリア達は再び暗い森を進んでいた。日が昇らぬうちに陥落した砦近くまでたどり着く必要があったからだ。

 郎党を率いて進むアリアの足取りに焦りはなく、自身に満ちていた。危険な任務にあたる前に、「郎党クランの意思統一」と言う一番の懸念を解消できたことが大きい。


 僅かな時間ではあったが、アリアは困難な任務をどうこなすか?冷静に考え下準備を行った。


 対する敵は強力で未知数だが、「帝国」の軍隊、亜人の間にも轟くデーン将軍の名声と戦いぶりは、彼の軍団がどのようなモノかを伝えていた。

 また、実際に彼と戦った経験を持つ砦司令官ベールデナから実体験を聞き、実像を補完し、おおよそでは在るが敵がどのようなモノか推し量る事が出来た。

 自身が切り出した困難な任務に対し、逡巡は在ったものの引き受けたアリアに対して月獣ベールデナは協力的で、人員はこそ出さなかったが、妥当と判断される便宜、物資の供給を認めた。

 もともとは亜人が築いた砦なのだ、内部と言わず周囲の状況と言った細かな点まで良く判っている。


 相手がどれほど強力な部隊であってもこの条件なら五分、いや六分以上の勝ち筋がアリアには見えた。


 不安が無い訳では無い。だが恐怖で冷静さを欠いては、この先「郎党」を率いるなど務まらない。


 ここはまだ通過点よ。


 アリアは先ほどサール達に向けて言った言葉は、自分自身へ言い聞かせる為でもあった。


 「!!」


 前方の闇に異変を認めたアリアは真横に手を挙げた。「とまれ」の合図で全員が歩みを止めて身構える。砦までまだ少し距離があるが、敵の斥候か見張りか?郎党達にに緊張が走る。


 「ヘムですか、、、」


 声を抑えてレティシアはアリアに尋ねた。


 「、、、、」


 アリアはしばらく黙っていた。闇を見通せる亜人達と違い、レティシアは暗闇に何かを見る事は出来ない。明かりを抑えたカンテラは足元を照らす程度の光しか無く、今はそれすらも絞られており、状況を掴むことが出来なかった。


 「鬼火オニビ、、だわ、、」


 アリアは声を抑えて言った。そして手で合図を送って後方のヘラレス、サールを自分達の所まで呼びよせる。視たモノを簡潔に伝える。


 「鬼火オニビよ、、、兵士の屍のようだわ、亜人、人、両方いるみたいだけど、、、」


 鬼火オニビとは、世界シアに於いて遺体から残火ザンカが離れずに動くムクロとなったモノや、「クニ」に向かえず世を彷徨う残火ザンカ残火ザンカが乗り移ったモノを差す。


 世界シアに生きる全ての生き物は、死ぬと肉体に宿っていた「火」が小さくなり、いずれ肉体から離れていく。それは「自由の神」が「英霊の塔」を築いた「クニ」に集められ、再び世界シアに満ちる生命の熾火となる。生き物の一生はこの小さな熾火が肉体に宿る事から始まり、それが少しずつ大きくなって「ヒト」となる。

 「ヒト」とは「個人」や「自意識」のようなモノだと、教団の教えを学んだ時にアリアの解釈している。 

 それは「英霊の塔」に宿る英霊達ですら例外では無い。彼もいつかは熾火となり世に新たに生まれ変わるのだ。

 ならば何故、彼等の残火ザンカは「自由の神」によって「塔」に収められたのか? 英雄達の残火ザンカは、死してなを「炎」の様に燃え盛っていたからだ。激し過ぎる英雄の残火ザンカを「自由の神」は新たな肉体に宿る熾火となるまで、周囲の残火ザンカに影響を与えぬよう「塔」を立てたのが本来の目的だったとされる。

 鬼火オニビとは、本来の定めから外れ、死者の赴く場所へ行くことが出来なかった残火ザンカのことだ。

 そうなった理由は世界シアに「穴」が開いたからだと言われている。そして鬼火オニビは殆どが生ある者達ににただ害をなすのだ。


 いま、アリアの目前にはこの前線の戦いで倒れたであろう兵士達と思われる骸がヨロヨロと蠢いていた。

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