3-9

 オライン伯の話から、サールの身に起こったことが有り得ない事では無いとアリアも得心する。だが、、、


 「でも、ならどうしてサールはここに亜人の領土いるの?」


 アリアの質問にレティシアの表情に小馬鹿にするような笑みが浮かんだ。


 「サール様が母親と暮らした入植地は、数年前に亜人によって再び取り返されたのです。母親はその時の戦いでお亡くなりなったと聞きました。」


 「サール様は捕らわれ、の身となったのです。私はその後に何らかの事情で自由の身になったサール様に、お仕えしております。」


 アリアは自分の身の上など、サールに比べればどれだけ恵まれているのだろうと思った。と同時にサールの特異性についての殆どの答えを今の話で得る事が出来た。


 あとはサールの目的、そして二人の関係、、、


 まだ知りたい事は在ったが、アリアは一旦ここまでにとどめた。そしてレティシアに礼を言う。


 「ありがとうレティシア。にわかに信じがたい話だけど、サールがなぜ人の英霊を信仰しているのか、立ち振る舞いが元支配者とかけ離れているのかよく分かったは、後で彼と直接話すことになるけど、この件は私が無理やり貴方から聞いたと話すは、貴方に迷惑が掛からにようにするから安心して。」


 ただでさえ元支配者は目の敵にされる。そんな特異な事情が広まればもっと面倒な事になる。そしてそれが自身の奴隷からから漏れたとすれば、、、だがアリアの心配を見透かすように、レティシアは告げる。


 「ご配慮痛み入ります、ですがその心配は無用と存じます。今お話した事は、恐らくサール様本人の口から近日中にも打ち明けられたでしょう。もちろん他言は無用に願います、特異の事情ゆえ他人に広まるのは厄介です。あなた様の郎党の方にもご承知おきいただきたく存じます。」


 「それと、私共の主従関係を不思議に御思いでしょうが、、、」


 アリアはレティシアが伏せた問いに踏み込んできたことに驚く。


 「あのように彼、、、サール様は元「竜の血筋」といっても亜人デーム社会には全くの不慣れです。私は生まれてからずっとここ亜人社旗で奴隷として暮らして来ました。いわば私はサール様の案内を務める立場でもあります。」


 「ヘムとして育ったサール様は、私を「同族として哀れみ」助けて下さったのだと思います。「様」と呼ぶ必要もないとサール様はおっしゃられましたが、普段からの行動を「弁えて」おかないと、ボロが出れば面倒なことになります。」


 「実際のはどうであれ、主従として振舞う事が脆弱な我らには必要なのです、、、ですがアリア様に気づかれるとは、、、いやアリア様で良かったというべきか、、、そういった事情なので、以降も我ら郎党との中をよしなに願いたいと存じます。」


 自分たちの事情をすべて話し、レティシアは今後も共闘関係の継続を願い出る。願ってもない話だと思った、だがアリアは完璧すぎる話が少し引っかかった。彼女の説明に違和感は無い、サールの特異性を考えれば至極まっとうな話だ。だが肝心な部分がやはり伏せられているとアリアは感じた。だが今はその件は棚上げする、真相は彼女から聞き出すことは難しいだろう。サールに聞くのが常套手段だが、恐らくこの「頭のキレる娘」はそこまで読んでいる、、、


 「、、、ありがとうレティシア、その言葉は嬉しいは、駐屯地で偶然貴方たちを見つけたのは、本当に何かの縁だと思ったの。神の加護を感じたは。」


 レティシアの表情に皮肉めいた笑みが浮かぶ、アリアは彼女は感情を表に出し過ぎるのが欠点だと思ったが、それを指摘するのはやめた。


 「、、、ヘムの奴隷とヘムに育てられた元「竜の血筋」が「力の神のご加護」ですか、、、本当にアリア様は変わっておられます。」


 随分と馴れ馴れしくなって来たとアリアは思った。やはりレティシアは間者の類の可能性が高い、強力な後ろ盾があり、いざと言う時の切り札を用意してある。と同時に今の言葉は、彼女にすれば当然の思いかもしれない。


 確かに可笑しな「縁」だとは思う、だからこそ神の加護なのだアリアはそう思った。


 ここからは、自分次第、、、


 レティシアは浴槽から出ると、泡のついた体を桶の湯で流し、湯船の残り湯を排水し、そのあと軽く水で流して奇麗にする。そしてヘラレスたちが準備したお湯の桶を浴槽に入れ満たした。


 「さあ、どうぞアリア様。支度が整いましたのでお使い下さいい。不詳ではございますが私が御髪、御身体の汚れ、垢を落させて頂きます。」


 レティシアは軽く自身、髪を布でふき取り体に巻いて、アリアに湯船を進めた。

 

 「ご安心下さい、侯爵家のアリア様なら、私の手際を必ずご満足頂けると確信しております。お時間も迫っているようなのでお早くこちらへ」


 その企みを秘めた顔に、アリアは彼女が本当に表情を隠すのが下手なのだと思った。だが断るわけにもいかない、いったい何をされるのか?アリアは不安もあったが、目の前の湯船の魅力には勝てなかった。

 湯に片足を入れ、そこから全身を湯船に浸した時、久しく忘れていた甘美な感覚に思わず目から何かが零れそうになった。


 嗚呼、、、


 「アリア様、湯加減はいかがですか?熱い、ぬるいががりましたらお申しつけ下さい。」


 「大丈夫よ、、、とても良いお湯だは、、、」


 「それは、よう御座いました。では失礼させて戴き、御髪の手入れをいたします。痒いところがございましたらお申し付けください。」


 「お願いするは、、、」 


 自慢するだけあってレティシアが腕前はアリアを満足させた。久方ぶりの「垢すり」の心地よさに酔いしれたアリアが漏らした吐息は、思わずヘラレスが耳にして慌てるほどで、その「ちょっとした騒ぎ」は、部屋の外で見張っていたサールが何ごとかと慌てることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る