人か?亜人か?

 太陽が顔を覗かせ、周囲は明るくなり始めた。


 「血染めの赤髪」の雄叫びは、結果数名の輜重隊員を起こし寝入ったばかりの宿営地でちょっとした騒ぎとなった。

 起こされた輜重隊長オークは、不機嫌な眼差しで報告を求めた。アリア達は撃ち取った白髪の死体を見せ状況を説明した。


 アリアはその時の白髪を見る輜重隊長の渋い表情が印象に残る。


 恐らく思い当たる節があるのだろう。


 鋭鬼オークはアリア達を労い、引き続き見張り任せて隊員たち共に再び寝入った。


 アリアは騒動の顛末の全てを鋭鬼オークに報告しなかった。本来は規約違反に当たるが、あちらも伝えるべき事実を説明していない節がある。

 又、確認した事実をどう取り扱うべきか?アリアはモノがモノだけに慎重を期すべきだとサール達も説得し了解を得た。


 ヘラレスは露見した場合の危険を具申したが、アリアはあっけらかんと答えた。


 「些末な問題を「長」を煩わせる事無く処理し、雇用主を満足させるのが「傭兵の腕の見せどころ」じゃなかったかしら?」 


 「そして「しかるべき報告」をしなければ、輜重隊長の腰の双刀で切り刻まれても文句は言えない、だったらまず自分達で中身を検分してから伝えるべだわ!」 


 「大体アレでしょ?私達が見つけたんだから「コレは私達のモノ!」そう言うのが護衛任務の慣例だって、ヘラ爺が言ってなかったけ?」


 雑鬼コブリンが居た場所に何かある、そう思ったアリアはその場を調べた。そこには埋められた木箱が掘り返されつつあった。アリアはヘラレスに命じて急いで箱の中身を取得し隠蔽させ、箱はそのまま埋め戻させる。

 輜重隊員達が起きて騒ぎ始める少し前、あるモノを見たアリアは、報告するかどうか中身を確認してから決めたかったのだ。


 箱が埋めてあった木の側には目印の様なモノが彫ってあった。詳しく調べられなかったが、古いモノの様に思われた。

 アリアはチャンスだと思った、同時に命に係わる危険な事かもしれないとも。 


 そう、コレは微妙なバランスが問われる「灰色の領域」だなのだ。



 サール達はアリアと見張りを交代した。


 報告直前に彼女達が雑鬼コブリンが潜んでいた場所から何やら発見したらしい、彼女の従者が幾つかの小袋を手にしていた。

 中身が気になったがそれ以上にサールが驚いたのは、彼女がしばらくこれを管理して欲しいと自分に預けた事だった。


 こんな亜人デームがいるのか?


 サールは驚嘆した、相手ゲラール婦人訳アリ元「竜の血筋」とは言えの出自だ、彼の経験では考えられないと言って良かった。

 

 レティシア監視者が何か言いたげにこちらをチラチラ見ていた、へムであっても生まれた時から亜人社会で育った彼女は、亜人デームとしてしか物事を判断出来ないのは道理だとサールは思った。


 先ほどの白髪を逃がす指示しかり、雇われる時のゲラール婦人達とのやり取り一つをとっても、仮面を脱いだレティシア監視者の指摘はもっともだと思う。

 自分が「外」の亜人社会にいかに馴染んでいないかが判る。


 サールは生まれてからヘムとしての経験、愛情と差別。そして亜人の奴隷としての身分しか知らなかったのだ。


 「それをどうするつもり?」


 レティシア監視者も中身が気になるのだろう、訪ねてくる。


 サールは淀みなく答えた。


 「預かったモノだからゲラール夫人に返す、見つけたのは彼女達だから当然だろう?」


 サールの言葉にレティシアは憤慨し言葉を投げつける、人気が無いので本性剥き出しだ。


 「馬鹿じゃないの?何時までヘムのつもりなの!」


 レティシアはこの時サールが珍しく皮肉交じりに自分に言い返した事に虚を突かれた。


 「ゲラール婦人と共闘を勧めたのは君自身だ、良くも悪くも今の時点で協力関係に罅を入れるのは亜人デームであっても得策じゃないと判るはずだ。」


 「彼女のは支配者の立場、経験から物事の判断し現状を踏まえて立ち回る能力がある、それは君も理解しているだろう。」


 「そして彼女の立場は我々とそう変わらない、恐らくこれほど稀な共闘者は今後現れるとは思えない。」


 「私、君自身の目的達成のためにも必要な亜人デーム達だ。」


 サールの言葉にレティシアは貌を真っ赤にしたが二の句が無い、それは駐屯地の奴隷コーボルト市場でアリア達を見つけた時に彼女自身レティシアが直感で感じ取った事だ。まさかと思ったが、彼女達から近づて来るとは思わなかった。


 ヘム亜人デームか?


 サールは命の恩人であり育ての親、そしてこの「居場所の無い」境遇を自分に課した「母」を恨むべきなのか?英霊ゴアに問うてみた。


 が、明確な英霊ゴアの言葉をサールは聞き取れなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る