花嫁戦記2

2-1

 真夜中、到着した輜重隊の馬車を砦の兵士たちが出迎える。


 兵士達は粗野でありながらも親しみを込めた「筋肉」による挨拶を交わし笑い合う。隊員達は物資の嗜好品や持ち込んだ娯楽品などを手に、砦の兵士と共に最近の情報や賭博の貸し借りを口走りながら食堂や待機部屋など、思い思いの場所へ散っていく。中には練兵場で本気か訓練か判らない勝負を始める者までいる。


 アリアは兵士たちが退屈し、血に飢えているのだろう思う。


 入れ替わりに沢山のコーボルト奴隷達が出て来て荷台から荷降ろしを始める。何処でも雑事全般は彼等コーボルトの仕事の様だ。


 最前線と言っても現状でこの辺り一帯に目立った変化はない、亜人デームヘムも力を蓄え、計略を巡らし、相手を打ち滅ぼす一手を打つ機会を伺っているのだ。


 奴隷たちが荷台から荷物を下ろし運び込む作業を進める一角で、輜重隊長オークが自分のコーボルト奴隷を連れて誰かを待っている。恐らく砦の指揮官だろう、搬入した物資の確認と受け渡しの手続きのためだ。コーボルト事務方は何やら書類を抱えている。


 「、、、、」


 アリアはこう言った管理統制がしっかりと執り行われている事が意外だった。前線砦ともなれば支配者の目が行き届かず怠惰、あるいは殺伐とした雰囲気が漂っているのでは?と、駐屯地の治世のほころびを見て思っていた。

 練兵場から怒号が響き渡る、アリアが見ても砦の兵士は屈強そうな者が多い。だが砦は(奴隷コーボルトが行っているのだろうが)取り散らかった様子もなく、設備においても機能を整然と保った印象を受ける。


 こんな輩を束ね統率し、砦を管理する指揮官とは何者なのだろう?


 アリアは鋭鬼オークが会おうとしている人物に興味が湧いた。どの道数日の厄介になるのだから挨拶はしなければならないだろう、アリアはサール達に声を掛け、輜重隊長オークの元へ向かった。


 砦の出入り口からそれが現れた時、アリアは「ギョッ」とした。


 それは見た事もない生き物だと思ったからだ、だが違っていた。

 よく見ればそれは四つん這いで地面を這って進んでくるヘムの女奴隷だった。

 そう言った装束なのか?拘束具なのか判らない、革製のベルトの様なモノを身体に巻き、かろうじてそいった部分を覆い隠し、、、いや胸は露出している。

 いつからその仕打ちを受けているのか判らないが、掌と膝は皮が擦り剝け血が滲んでいる。体のあちこちに痣や切り傷の様な後も見受けられた。

 いたぶられ、辱めうけたに違いない奴隷。その表情は苦しそうだ。

 

 いっそ壊れてしまえば楽だろう。


 アリアは亜人とは言え醜悪なその有り様に眉をひそめた、生産性の無い奴隷の扱いは愚かな行為だと彼女は思う。

 だがそう言った嗜好を戒める支配者は亜人の中でも稀有だ、仮に本人が好まないとしても配下や部下の財産管理の仕方に口をいちいち挟む者はいない。


 その後ろから奴隷の首輪から伸びた鎖を握り、事務方の奴隷コーボルトを引き連れて現れたのは、、、、


 、、、ヘム!?


 その人物は人族の男にしか見えなかった。服の上からでも解かる引き締まった筋肉、鋭鬼オークとさして変わらぬ背丈だが両者が相対して判るのは、砦の指揮官の方が格上だと言う雰囲気だ。 

 アリアは「実力者だろうか?」と思ったが、指揮官の持つ独特の風貌にある「血筋」を思い出し、その人物を細かく観察し直す。


 、、、、やはり、間違いないは!


 砦から出て来たヘムに見える男は、輜重隊長オークへ親しみを込めた「筋肉」による挨拶をする、鋭鬼オークは少し嫌そうな雰囲気でそれを受けた。

 相手人に見える男に力を入れた様子は無かったが、鋭鬼オークが痛みを我慢しているのが判る。どうやら組織内における上下関係を確認し合う慣習のモノ様だが、、、


 あれはヘムじゃやない、月獣ゲットだわ!


 彼等月獣はアリア達「竜の血筋」と同じく、亜人に於いてその外見はヘムに近い、いやヘムそのものだ。


 彼等は月と結びつき、その呪いと共に生きる亜人デームだった。

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