第三章「愛慕の証を胸の奥に」

最初は、ひたすら逃げたいと思っていた。

でも、薬のせいで動きにくいから、とっくに諦めた。


「穂香…?」

大丈夫。彼ならきっと…。

「逃げたいです」

「は?お前…俺とああいう事して、今更逃げる気があるのか?」

「だったら、仕方ないな。

薬の副作用もそろそろだし…」

「え?」

ドドッと心臓が強く跳ねた。その代わりに、今までにない副作用が襲ってきた。

「うっ…!!何これ…?」

「副作用が早いな…。これで、俺の傍から離れられないよ」


「和誠さん…?どうして?どうしてこんな事をするんですか?」

「俺に惚れたな」

「え?で…でも一度も言ったことありませんよ?」

「そうか?俺とああいう事したから、好きになったのか?それとももっと前から…とか?」

きっぱり「いいえ」と答えられない。

「答えなくてもいいですか?」

「うーん、答えても、答えたなくてもどっちでもいいぞ」

「や…やめて、お願いだから…。なんでも言うこと聞くから」

「本当か?なら、薬は?どうする?」

「薬より…和誠さん、あなたの方がいいです」

「ふーん。俺はもうとっくに知ってたぞ?なんだ?嫌…か?」

少女の顎が少し上げられ、和誠はじっと穂香を見つめた。

顔が徐々に赤くなり、和誠は、微笑んだ。

そして…。


「…キスしようか?」

「え?い…いきなり何ですか?」

「なんだ?俺よりもアレクの方がいいのか?それとも、もう死にたいのか?」

「死にたくないです。そろそろ父に連絡してもいいですか?」

「だめだ。それに無駄だ」

「いっ嫌…!!」


「嫌だ。だっだめ…!!」

まただ。また…薬を注入された。

また、光が消えていった。


「和誠さん?」

「なんだ?それに俺は和誠じゃない。アレクだ」

「アレクさん、あの…」

「アイツとは、仲いいんだな。俺よりも…」

「え?」

「俺との方がいいと思っていたんだが…」

「…いいえ。ただ…私は……」

「!!」

バーン!!!

大きな銃を撃つ音がした。

「うぐっ…!!」

撃ち抜かれる心臓の音。

「アレクさん?アレクさん!!」

悲鳴を上げた穂香。

穂香は、倒れる和誠の体を両手で受けとった。


「ごめんな…穂香さん。せめて、最後くらい…一人の男として、ま…守らせて…もらうよ」

「いやっ嫌だ。和誠さん!!行かないで。嫌だ、嫌だ、行かないで!!」

「ごめんな、穂香。…いつまでも愛してるよ…忘れるなよ?」

穂香は、最後の最後まで、和誠とアレクに対する本音を伝えられなかった。


涙を流しながら、二人は最後のキスを交わした。

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