第35話 暴君英雄
「レオン?」
「セイル?」
「「何でお前がこんな所に居るんだ?」」
なんと噂のA級冒険者『暴君』の正体は、俺の昔の仲間のレオンだった。
「え? セイル?」
「おや本当だ」
レオンの言葉を聞いて、リシーナとカルファも俺に気付く。
「おいおいおい、何でお前が冒険者ギルドに居るんだよ!? ここはお前みたいな役立たずになった奴が来るような場所じゃないだろ?」
「「「「っ!?」」」」
周りの冒険者達がレオンの発言に驚いている。
まぁ負傷して引退した冒険者に対して言うにはちょっとキツイ物言いだからな。
レオンだけが特別口が悪い訳じゃないが、それにしても衆人環視の中で大声で言う事じゃないのは確かだろう。
「ちょっとレオン、いきなり何言うのよ! ごめんねセイル、久しぶりに会ったのに」
だがさすがにレオンの発言は問題だと思ったのか、リシーナがレオンを叱りながら再会の挨拶を交わしてくる。
「いや構わないさ。それよりも久しぶりだな皆」
レオンの口が悪いのは今に始まった事じゃない。
いつもの事だとばかりに俺は二人にも挨拶をする。
「う、うん。久しぶり」
「カルファも久しぶりだな」
「ああ、ひさしぶ……っっっ!?」
再会の挨拶をしてきたカルファだったが、突然目を丸くして言葉を詰まらせた。
「どうしたカルファ?」
「あっ、いや……元気そうで何よりだ」
うーん、明らかにどうかしたっぽいんだが、どうしたんだ一体?
「あの、リシーナさん。この人お知り合いなんですか?」
と、そこで後ろから見知らぬ女冒険者が会話に参加してきた。
レオン達の新しい仲間かな?
「あ、うん。昔の仲間よ。ほら、前に話したでしょ、セイルよ」
「そうだぜ、コイツが役立たずのセイルだ」
「ちょっ、レオン!」
俺の事を紹介しようとしたら、レオンが茶々を入れてきたのでリシーナが再び怒る。
うーん、懐かしい流れだ。
「事実だろ。もうコイツは冒険者として役立たずなんだからよ」
実はもう怪我は治っているから、再び冒険者として活動する事も出来るんだが、面白そうだからもうちょっと黙っていよう。
「にしてもホントなんでこんな所に居るんだよお前。まさかアレか? お情けでギルドの職員として働かせてもらってんのか?」
なるほど、俺が冒険者ギルドに居る事をそう判断したか。
確かに経験豊富な冒険者が引退した際にギルドの職員になる事は実は結構ある。
俺も読み書きができるので、引退したらギルドの職員にならないかと誘われた事もあったからな。
実は計算や読み書きができる冒険者って意外と貴重なんだよな。
「いや違うよ」
「だよなぁ。お前は俺と違って脱落組だもんな。まぁ良く生きてたもんだ。それだけでもスゲェよ! はははははっ!!」
「そっちは随分活躍してるみたいだな」
俺が話を振ると、レオンはニヤリと笑みを浮かべる。
よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりだ。
「おうともよ! 何せ今や俺はA級冒険者様だからな!」
やっぱり、レオンが噂のA級冒険者だったのか。
「暴君英雄なんて呼ばれてるけどね」
と、得意満面なレオンにリシーナがツッコミを入れる。
「そういえば何で暴君なんだ?」
確かにレオンは口が悪いが、それでも暴君というほどじゃなかったはずだ。
そもそも冒険者は育ちが悪くてガラの悪い奴が多いから、口の悪さが原因で喧嘩になるなんてザラだ。
俺もパーティから追い出されたが、アレは冒険者ならたまに見る光景だしな。
一応は手切れ金も貰えたし、寧ろ冒険の途中で囮にされて死ぬよりはよほどマシな引退の仕方だったといえるだろう。
「あー、それは……ね」
リシーナが言いづらそうにレオンに目を向ける。
「はっ、俺の活躍を妬んだ連中の姑息なあがきだ。まぁ俺以外の冒険者なんざ、どいつもこいつも雑魚だからな」
「「「……っ!!」」」
レオンの発言に周囲の冒険者から殺気が立ち上る。
なるほど、これは暴君呼ばわりされるのも仕方がない。
「ちょっ!? またっ!? いい加減にしなさいよ! 毎回周囲に喧嘩を売るような事ばっかり! アンタね、A級に昇格したからって調子に乗り過ぎよ! あんまり増長すると碌な目に合わないわよ!」
なるほど、どうやら俺が抜けた後でA級に昇格したことで、レオンの自尊心が暴走してしまったらしい。
カルファは興味のない事には我関せずだし、リシーナ一人じゃレオンを抑えきれ……ってそういえば。
「リシーナ、そっちの子は?」
俺はレオン達の新しい仲間の事を紹介されていなかった事を思い出し、話題を逸らす。
「あっゴメン。この子はセイルが抜けた後に入って来た新しいメンバーよ。アマリ挨拶して」
「あ、はい! アマリと言います。職業はスカウトです。レオンさんに憧れてパーティに入れて貰いました!」
ようやく紹介して貰えた事で、アマリと呼ばれた少女は安堵のため息を漏らす。
「俺はセイルだ。よろしくな」
「はい、よろしくお願いしますセイルさん!」
「スカウトを入れたんだな」
「ええ、やっぱり罠感知の出来るメンバーは欲しいからね。それにこの子結構腕が良いのよ」
なるほど、リシーナの言いたい事も分かる。
俺が怪我をした最後のダンジョン探索でも、トラップで酷い目に遭ったからな。
最後の戦いでポーションが足りなくなったのには、最下層の守護者との戦いだけじゃなく、トラップが原因の負傷も少なくない理由だった。
「ははははっ、よろしくしなくても良いぞアマリ。どうせコイツとは二度と会わないだろうからな」
「もぅレオン! そんなだからアンタは暴君英雄なんて呼ばれるのよ!」
リシーナが叱責するも、レオンはどこ吹く風と言った感じだ。
「雑魚共を気遣う必要なんてねぇだろ。俺はA級冒険者なんだぜ。それだけじゃない、今に俺は貴……」
「いい加減にしないか! セイル殿に対して失礼だろう!」
と、今まで黙っていたギルド長がレオンの言葉をさえぎって叱りつけた。
き……何だったんだろう?
「んー? なんだギルド長じゃねぇか」
「なんだじゃない! お前こそ何だその口の利き方は! 誰に向かって無礼な口をきいたと思っているんだ!」
まぁレオンの態度は褒められたものじゃないからな。
いくら戦えなくなって冒険者を引退した相手だからといって、ここまで言うのは流石に失礼にもほどがある。
まぁ今の俺はラシエルのおかげで健康な体に戻れたからレオンの言葉にもそこまで怒りは感じないが、怪我をしたままだったら居たたまれなかったかもしれない。
ギルド長もレオンの礼儀を失した行いを諫めければいけないと感じたんだろう。
ギルドの上役は冒険者を引退した人が多いから多少の無礼には寛容だが、この人はそういうのにも厳しい人みたいだな。
……俺はちゃんと礼儀正しく会話出来てた……よな?
「誰ってそりゃ、そこの元冒険者様だが? 昔の知り合いだから親交を深めていたんだよ。つーかなんだよ。まるでセイルが偉いさんみたいな口ぶりじゃねぇか」
「その通りだ! セイル殿はこの町の町長だぞ!」
「セイルが町長? マジで?」
「町長っ!? この人が!?」
ギルド長の言葉を聞いて、レオン達がマジかと言いたげな目でこちらを見てくる。
「あー、まぁな」
「マジかよ!? 何やったんだお前!?」
「セイルが町長? ホントに?」
「色々あってな。ガラじゃないが町長をやる事になったんだ」
「はー、そりゃ上手いことやったもんだ。役立たずの死にぞこないから町長様に出世とは大したもんじゃねぇか。はははっ、出世祝いに指名依頼を受けてやってもいいぜ。ちょっとくらいなら値引きしてやるぞ?」
「ちょっ、レオンさん、町長にそれはさすがに……」
俺が町長になったと知って固まったリシーナに代わり、アマリがレオンを窘めるが新入りのアマリでは迫力が足りずにレオンを止める事は出来ないでいた。
「ははは、そりゃどうも」
まぁ俺としてはA級冒険者とのつながりが出来たと思えば、悪くない再開だ。
割引してくれるみたいだしな。
A級ともなれば、その名声もあって色々と力になってくれるだろう。
顔見知りというのも仕事を頼みやすいところだ。
性格はともかく、実力は信頼できるからな。
「い、いい加減にせんかこの馬鹿モンが! セイル殿に難という失礼な言葉使いだ!」
しかしギルド長はレオンの振る舞いに怒りを爆発させたままだった。
うーん、本当に礼儀に厳しい人なんだな。
「おいおい、偉いって言ってもたかが町長だろ? 貴族って訳でもないだろうに」
「セイル殿はその貴族なんだ!」
「は?」
「正しくは国王陛下から貴族と同等の権限を持つ事を許された町と周辺の土地の管理者、つまり実質的な領地持ちの貴族なのだ!」
いや、厳密には貴族じゃないから、そういう言い方をされると困るんだが。
「国王に認められた? セイルが? しかも……」
「「領地持ちの貴族ぅぅぅぅぅぅっ!?」」
案の定レオンとリシーナが驚きの声を上げる。
「あーいや、そんな大したもんじゃないぞ。本当にただの町長だぞ」
だがレオン達には俺の言葉は全然聞こえていないみたいで。
「う、嘘だろ? セイルが貴族?」
「だから違うから」
「え? え? え? セイル、アンタいつの間に貴族になったの!? もしかして平民ってのは嘘で元から貴族だったの!?」
「だから貴族じゃないって。町の管理者だよ」
「信じられねぇ! こいつセイルだぞ!? お人よしで役立たずになったセイルだぞ!?」
「いい加減にせんかぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
結局、久々の再開はグダグダに終わり、レオン達は激怒したギルド長に連れられてギルドの奥へと連行されていったのだった。
◆ある冒険者達◆
信じられねぇ。アイツ町長に対してとんでもねぇ事言ったぞ!?
あまりにも礼儀知らずな発言に、周りの連中も呆れている。
ギルド長に至っては驚きの余り言葉を失っていた。というか顔が真っ青だ。
町長はいくつもの町を滅ぼした魔物を退治し難民になった連中を一人残らず受け入れて救った英雄と呼ばれ、さらに言えば貴重な資源を算出する野生のダンジョンを要する町の支配者だ。
そんな町に支部を間借りさせてもらってるギルド長としちゃあ、暴君の発言は部下が貴族に暴言を吐いたに等しい。
町長は平民らしいが、聞いた話じゃ国王直々に貴族と同じ権限を与えられた実質的な貴族だっていうじゃないか。
普通なら捕まって処刑されてもおかしくない。
にもかかわらずあんな無礼な物言いをするなんて信じられん奴だ。
いくらこの町に来て間もないとしても、冒険者なら現地の情報を集めるのは当然のことだぞ!?
「……終わったなアイツ」
「ああ、町長にあんな暴言を吐くなんて馬鹿なヤツだ」
ぽつりと誰かが漏らした会話に俺達は頷く。
町の連中は町長に救われた事で、町長を心から信奉している。
中には神の遣わした救世主だと拝んでいる連中もいるとかいう噂だ。
そんな町長に喧嘩を売った事が町の連中に知られたら、アイツこの町で生活できねぇぞ。
しかもこの町には町長に忠誠を誓う二人の達人と、なんか良く分からん生き物の群れが居る。暴君は間違いなく目を付けられた筈だ。
俺達は互いに視線を交わせ、目だけで会話をする。
((((関わり合いにならないでおこう))))
この日を境に暴君英雄と呼ばれた男は暴言英雄と蔑まれるようになるのだった。
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