異世界転生モノに頻出する作風として、「地の文の少なさ」があげられると思う。しかしこの作品といえばどうだろう。
経済について、金の巡りや国際情勢について·····さまざまな「難しいこと」の説明が欠かさず行われ、読者に分からない話が勝手に進んでいくということがない。
そのわかり易さ、丁寧さがこの作品の良さの多くを占めていると思った。
だが良さはそれだけにとどまらず、キャラクター 一人一人の感情の鮮やかさ、背景情報の綿密さ、言葉の扱い方などすべてが高レベルな作品だった。
最終話には賛否両論あるだろうが、個人的には作品を締めくくるに相応しいものだと感じた。
時間のあるときに読み返して、この場面ではこういうことが起きていたのか、という楽しみ方もしてみたい作品である。
ここまでしっかり経済・経営を描写され、かつ完成度のある作品って中々ないと思う。
ただ文法的な間違いや誤字・脱字はさておき、幼少期を飛ばしているせいか、キャラクターの動機付けや心理描写が弱い印象。なぜ主人公は経済の発展を頑なに目指したのか、親王の目的は、真の黒幕は?等々。魅力的なキャラクターが多いだけに非常に残念。1話ぐらいでサラっと書かれているけど、もっと深掘りして欲しかった。
あと最後悲しいなぁ。これは好みですが、大円団とまでは行かなくても、もっと救いのある結末の方だったら良かった。
主人公と黒幕、どちらにも正義があってそれが清算された、と言えば響は格好いいのだろうが、それが読者としてしっくりこなかったのは黒幕側の描写があっさりし過ぎて主人公ほど共感出来なかったからだと思う。黒幕とW主人公にして、異世界編と日本編、勇者編の3本仕立てだったら良かったのかも。
次回作を期待して待ってます!
まず目につくのは魅力的なキャラクターもだが、その物語の完成度の高さだと思う。
異世界とは言えまるで本当にその世界が存在しているかのごとく錯覚させる細やかな設定と分かりやすい説明にそれを作り込むのにかなりの時間と労力を感じ好感を持つとともに脱帽する思いである。
このしっかりとした基礎。土台に計算された物語構成。大体小説一冊分に起承転結が組み込まれている為、とても完成度が高く読者をワクワクさせる仕掛けが組み込まれている為、気がつくと物語に入り込み没頭している自分がいる。
正直、大好物内容で作者先生には素晴らしい作品をありがとうございます。書籍化したら買いたいですと言いたい。
現代の異世界ファンタジーにとって経営・経済はすっかり主要なテーマの一つだ。
本作は転生者のフェリックス少年が若くして経営学・帝王学を実践していく様子を描く。それにしてもこれほど徹底している作品は驚きだった。
貨幣換算が可能になっているからとも言えるが、私たちの社会はとにかく生きていくためにも働くためにも経費がかかる。
それだけではなく、家柄の問題や趣味嗜好の問題、行動経済学や政治的側面も商売の成功のためには当然考慮しなければならないが、実際にそこまで気を使うのは難しい。
それを乗り越えていく様は痛快だが、それと同時に、人間社会は――
作品としては貴族社会だが――ここまで様々なしがらみに縛られているのかと嘆息する。
しかし、まさにこういう描写こそがリアリズムなのであって、読み心地には本格歴史小説の風味も感じられる。
湿地に優位なマルイモを生産させることで、主要な作物である小麦の税率が上がり、農民の実質所得も二倍になった。
こういう触れ込みにピンと来た読者は、ぜひ、これからの更新を楽しみにしてもらいたい。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)