24-4.必然か
事務所には由希ちゃんひとりで、社長夫妻や営業さんは留守みたいだった。
「えへへ、イブに会えるって嬉しいですね」
正直、私はそこまでイベントに特別感を持てないヒトなのだが、そういや、そもそも去年のクリスマスは圭吾くんとヘンな感じになっちゃって私はひとりぼっちだったのだ。
それに比べて今年はステキな人たちに囲まれてずいぶんと充実している。恋人同士のイベントとしてはあれでも、皆が楽しくいられるお手伝いになる仕事に励んでるってのも充実感になる。こういうのもいいよなぁなんて。
「まだ明日までタイヘンなんですよね」
「そうなんだよ」
「じゃ、終わったら御疲れ様会しましょうよ」
いいかも。ナオトくんとゆっくりデートできるのは年明けになるし、彼へのプレゼントをじっくり考える必要はあるけど、どうせサプライズでは負けてしまったのだから遅くなったっていい。その前に女子会でリフレッシュだ。
「ところで畠製作所さんにはもう行きましたか?」
弥生さんも、自分が食べたいからーとクリスマスケーキの注文をくれたのだ。
「今からだよ」
「弥生さんなら夕方こっちに来ますから、渡しておきますよ」
「や。そういうワケにはいかないよ」
「……そうですよね」
由希ちゃんは眉間にシワを寄せて私を見送った。
彼女がああいう妙な表情をするときには何かある。気になっだけど、今日ばかりは仕事に集中で、深く考えずに私は次の配達先に向かった。
弥生さんがいる畠製作所は、工場エリアらしい広い道路に面した元コンビニの建物を利用したコインランドリーの横の脇道を入った突き当たりだ。
この脇道は幅が狭い。配達車が邪魔になったら悪いと気遣いコインランドリーの駐車場にエヌバンをとめ、バトンケーキの箱が三つ入った手提げ袋を抱えて小走りに奥へと向かった。
畠製作所とコインランドリーの間にもう一社、小さな工場があったりする。真正面の畠製作所が目立つので、別の会社だったのかと驚いた覚えがある。一応、通りからすぐわかるように突き出した看板があって――社名が「林鉄工所」になっていた。
はっきり視界に入った人名に心臓が飛び上がる。なんとか足を止めずに素通りする。
「こんにちは」
あけ放たれたシャッターの横の勝手口を開けてあいさつしたものの、声がかすれて小さくなる。それでも小さな事務所の中にいた女の子が気づいてくれた。新卒かなって思うほどまだ若い。弥生さんは作業をしたり外回りもするから、別に事務ができる子を雇ったのかな。
その子に受取のサインをもらって「生菓子なので冷蔵庫にしまってください」なんて伝えつつ、背後の鉄工所の方が気になって首のうしろがざわざわしちゃう。
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