24-3.偶然か
こういう抜け駆けみたいなサプライズはズルい。完全に油断していた。
「私は今日、何も持ってないよ」
「当たり前、約束してなかったし」
「なんかズルくない?」
なぜだかナオトくん相手にはするっと本音が出てきちゃう。口を尖らせる私に彼はどこ吹く風でひょいと肩をすくめた。
「怒らないでよ。紗紀子さんだって偶然があったらいいねって。僕は偶然に備えてただけ」
ずいっと包みを押し付けられて私はそっと受け取った。
なんか。この子には負けっぱなしな気がする。私なんか、忙しさにかまけて未だにプレゼントを準備してないっていうのに。ちきしょう。
「引き留めてごめん、忙しいよね。じゃあ」
バンから離れてバイバイと手を振るナオトくん。私はちょっと目をぱちぱちさせてからこっくり頷いた。ちきしょう、言葉が出ないぜ。
午前中の分の配達を無事に終えてお店に戻ると、ランチタイムの飲食店並みにお客さんの行列ができていた。
学生時代にバイトしていた和菓子店もお正月の三が日はお年賀を買い求める人で繁盛したけど、その比ではない。年間売上の半分は十二月二十四日に集中するってホントっぽい。イブの購買意欲ハンパねぇ。
端から見ると、売り場も調理室も大混乱なようすで、ヘルプに入ったほうがいいのかなって迷ったけれど「こっちはこっちで午後に備えてきちんと休憩しないと」って春隆さんにたしなめられて一緒に建物の裏のベンチで昼休憩を取った。
セールの三日間に出勤する従業員のランチは、お店持ちで仕出し弁当を頼んでくれてあって、今日は私はオムライス弁当をいただいた。
意外と、こういう売ってるお弁当みたいなものは普段あまり食べないから、ご馳走してもらえるのは充分モチベーションになる。
イケてるおじさまとこれだけ長時間同席できるというのも贅沢なことだ。充分潤う。憧れステータスが下がるとかいってごめんなさい、春隆さん(だからナニガ)。
午後の配達先は会社が主で、事業所に百折以上のお菓子の詰め合わせを届けたり、美容やアパレル関係のお店にプチフールを持っていったりといろいろだった。
三時休憩にさしかかる頃、かつて通いなれた工場エリアに私は向かった。
「こんにちはー。ベイ・ベリーです」
照れくささを感じつつ事務所のドアを開けると、
「わーい、紗紀子さん。ありがとうございます」
由希ちゃんが満面の笑顔で出迎えてくれた。うっ、ナオトくんに負けず劣らず笑顔がまぶしい!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます