10-3.楽しんだもん勝ち

 クルマを停めて部屋に入ると、樹里は怯えた様子で鞄を抱きしめた。

「せ、先輩っ。どうして……」

「シミュレーションするんだよ。実地でやった方が安心できるでしょ?」

「はあ!?」

「樹里はどうして私に相談してきたのさ?」

「そりゃあ、先輩が経験豊富だと思ったから」

「でしょ? なら経験に基づいてアドバイスしてあげる」

 上着を脱いでブラウスをくつろげながら私は樹里に流し目をくれる。

「お風呂一緒に入る?」

「せんぱい~~」

 もはや樹里は泣きそうだ。はは、カワイイ。


「冗談だよ」

 よいしょとベッドに上がって足を延ばして座りながら、私は樹里を誘った。

「へんなことしないから、こっち来て」

 樹里は鞄と上着を置いて、まだ少し警戒の様子を見せながらベッドに上がった。

 確認して私はごろんと仰向けに横たわる。

「ここって鏡はないんだね」

 枕元に堂々と玩具が置いてあるわけでもない。至ってスタンダードな部屋だ。


「樹里はさ、彼氏のことが好き? 別れたくない?」

「そりゃあ、好きです」

 そこはきっぱりと樹里は言い切った。

「わたしがこんなだから、お付き合いの返事をするまでずいぶん待たせてしまったんです。だけど急かさずちゃんと待っててくれました。結婚を前提にちゃんと付き合おうって言ってくれました。だから私もちゃんとしたいんです」


 待ってた分ムラムラきちゃうわけだな、むっつりめ。

 苦笑いして私はうつ伏せになって頬杖をついた。

「ならさ、歩み寄りも大事だよね」

「はい」

「そう悲壮にならないでよ。セックスってさ、みんな楽しんでやってるもんだよ。楽しんだもん勝ちだよ」

 大人になればそこは避けて通れない。プラトニックなんてありえない。思い知って、みんな汚れていくんだ。

 だったらいっそ、楽しまなければこれほど損なことはない。私はそう思う。


「怖い?」

「少し」

「ほんとに気持ちよくなれば、そんなの気にならないよ」

「わからないです」

 困ったように俯く樹里の顔を下から覗き込んで私は笑う。

「恥ずかしいの?」

 樹里は真っ赤になる。可愛いなあ。


「恥ずかしいのは当たり前だよ。恥ずかしいから気持ちイイんだもん」

「先輩でもそうですか?」

「失礼な、もちろんだよ」

 私はもう一度仰向けになる。

「何がどう気持ちイイかは人それぞれだからさ、それを彼氏がわかってくれてないと最初はツライ」

「先輩でも?」

「だから同じだって」

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