8-3.経緯

 まずは理沙に目配せしてふたりで席を離れ、通路の暗がりで迫ってくちびるを奪った。

 当然番号を交換して次に繋げる。


 次に化粧室帰りの順子を捕まえてそこでまたキス。

 番号を交換した。


 もうね、サキコサンもびっくりの飢えた狼っぷりですよ。

「前の二回おとなしかったのは獲物を物色してたんだなあ」

「やるなあ。コウジ」

 感心する私と絵美を他所に、静香は頭を抱えてしまっている。職場が同じ静香でも予想がつかなかったとは、大した人畜無害振りだ。


「で? あんたら反省会で報告し合ったんでしょうね?」

 こういう飢えた男に食い荒らされないようにするための反省会なんである。

 これには順子が気まずそうな顔をした。

 うきうきと理沙がコウジくんとキスしたことを話したものだから、順子はとっさに何も言えなくなってしまったらしい。


「馬鹿だねえ。なんの為の反省会さ?」

「だいたい理沙はユウタくん狙いじゃなかったの?」

 静香が責めるように問いかけたが理沙はけろっと言ってのけた。

「だって、ユウタ意外と奥手でさ、一対一じゃ全然がんがん来ないんだもん」

 軽そうに見えたユウタが実は真面目で、人畜無害そうに見えたコウジが節操ナシだったわけだ。


 その場では本当のことを言い出せなかった順子だったが後から思い返し、コウジの正体を理沙に暴露して注意を促さねばと考え直した。

 そこで理沙に話があると連絡してご飯を食べに行く約束をしたそうな。


 そんな順子にコウジからお誘いのメッセージが届いた。

 女なら仕方のないことだが、コウジは理沙ではなく自分に気があるのではないかと順子は考えてしまう。

 けれど順子はもう警戒していたし、誘われたのが理沙との約束の日と被っていたから、お断りの返事をした。


 その直後、順子のところに今度は理沙からメッセージが届く。

 用ができたから約束の日を変更してくれという。当然順子はピンときて理沙を問い詰める。

 理沙はあっさり吐いた。

「コウジくんに誘われちゃってさ」

 これで順子はブチ切れた。

 自分は理沙の身を案じ、理沙を思って男の誘いをはねのけたのに、それにほいほい飛びつくお前は、トモダチとしてどうなんだ、と。


 用意周到な順子はそれを直接理沙にはぶつけず、すぐに静香に電話をかけて理沙の仕打ちを訴えた。まずは味方を作ろうという魂胆だ。

 そもそもここで吊るし上げの対象が理沙になってしまっているのが間違っている。まったく女同士というのは。


 冷静沈着な静香はもちろん口車に乗ったりしない。

 落ち着いて現状を確認し合うのが先決だと説いて、今に至るということらしい。

 なるほどねえ。

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