4-3.女の性
そんな感じで今日の成果をまとめ、あとの話題は仕事の愚痴や友人の噂話など、あらゆる方向に転がっていく。
「六組にさあ、順子ってのがいたじゃん。獣医学部に行ったの」
みんな頷いてるけど、私にはとんと覚えがない。同じクラスだったはずだけど。
「あんた受験前に大ゲンカしてたじゃん。あいつにこっちは勉強してるのにうるさいってイチャモンつけられて、休み時間におしゃべりして何が悪いって怒鳴り返してたじゃん。覚えてないの?」
絵美が教えてくれたけど、さっぱり覚えがない。
「紗紀ちゃんらしいねえ」
「で、そいつがどうしたって?」
話の腰を折られてちょっと不機嫌になっていた理沙が、気を取り直して話し出す。
「別れた上司に病気うつされてたのがわかって落ち込んででさ」
「マジで? ヤバいヤツ?」
「あ、ただのB型肝炎だけど」
ただのってのもオカシイけどね。それだけでも十分大事だよ。
「身に覚えがあるのはその上司だけだって。あれってさ、バラまいちゃってる危険性があるから身に覚えのある相手に全部連絡しなくちゃいけないんでしょ?」
「そう聞くねえ」
「まあ、それはないから上司に話すだけで良かったみたいだけど」
「別れたって言ったよね」
「他の女と結婚したって」
「馬鹿だねー。ほんと馬鹿」
ため息交じりに絵美が吐き出す。静香も顔を歪めている。
「オーラルでも感染するっていうけどさ、ゴムしてなかったの?」
「リング入れてるから生でしてたらしいよ。男がそうさせろって」
なんという馬鹿。
「避妊リングじゃ病気は防げないねえ」
「避妊だって百パーじゃないよ。ゴムは併用。これ絶対」
詩織と静香に続けざまに詰め寄られて、理沙は自分のことでもないのにバツの悪そうな顔をしている。
多分、理沙は順子寄りの考えで、感染はリングの不具合のせいとでも言いたかったのだろう。
どっちにしろ、自分の身を自分で守れなかった自分自身の責任だ。完璧に対策してたんならともかく、これじゃあ同情の余地はない。女同士、そのへんはシビアだ。
それとも、あわよくばその男の子どもを妊娠したかったのかな。結婚したかったのかな。それだって無謀極まりない。愚か者のすることだ。
だけど好きな男のために愚かに成り下がってしまうのも女の性(さが)だ。
哀しく思って目を上げると、絵美は暗い表情をして俯いていた。思い出しちゃってるんだろうな、自分のことを。
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