第102話 VS. 地岳巨竜アドヴェルーサ 20th.Stage
【決戦】
「ん……ぅ」
腕の中で【
「おぉっ!? 大丈夫かラトリア!!」
「ちょっと、揺らしたらあかんて!」
がっと腕に力が入ったムサシを、コトハが慌てて静止する。
「ラトリアちゃん、体の具合はどう?」
【
「……だいじょう、ぶ」
「そっか。痛い所とかは無い?」
「ん、平気……」
ゆっくりと呼吸をしながら返事を返すラトリアを見て、リーリエは【
「はぁ~……良かったぁ~……!」
若干涙ぐんだ声で安堵するリーリエに、ラトリアは少し申し訳無さそうにしながらぺこりと頭を下げた。
「ごめん……心配、かけた」
「ううん、いいよ。無事だったのなら、それで」
血の気が戻ったラトリアを見て顔を綻ばせたリーリエに、ラトリアは少し照れ臭い気持ちになった。それを隠すようにぎこちなく微笑んでから、ムサシとコトハを見る。
「ムサシと、コトハもありがとう」
「いいって、気にすんなよ……つっても、俺は何もしてないけどな」
「それ言うたらうちもや。もう、リーリエはんに頼るしかあらへんかったし」
はははと申し訳なさそうに頬を掻くムサシとコトハ。しかし、ラトリアはふるふると首を横に振った。
「……ちがう。みんながいてくれたから、ラトリアはあそこから帰ってこれた」
「あそこ?」
「ん……何て言うか、すごく暗くて……怖い、場所だった」
一瞬だけ体をぶるりと震わせて答えるラトリアを見て、リーリエとコトハは顔を見合わせる。対して、ムサシだけは若干頬を引き攣らせていた。
(おいおい、そりゃ
自分達が思っていた以上にラトリアの状態が切迫していた事に、ムサシの背筋に冷や汗が流れる。
「冷たくて、寂しくて……あと少しで、ラトリアは帰ってこれなくなるところだった。でも、ムサシ達が……助けて、くれた」
そこから、ラトリアは手短に自分が体験した事を話す。得体の知れない闇に呑まれかけた事、その闇をラトリアの求めに応じて現れたムサシ達を象徴する“力”が打ち払ってくれた事を。
「成程、そりゃ中々エキセントリックな経験だったな」
「ん……ここにはいないけど、アリアも
そこまで話して、ラトリアは立ち上がる。ふらつく事も無く、しっかりと二本の脚で地面を踏み締めたラトリアは、すっと視線を鋭くした。
「……もう一回、やる。今度は――」
「待て」
一歩前に踏み出そうとしたラトリアの肩を、ムサシが短い制止と共に掴んだ。
「ムサシ……」
「ラトリア、お前の“挽回したい”って気持ちは分かる」
じっと見詰めてくるムサシの瞳は、ラトリアの心の内を全て見透かしていた。だからこそ、止める。
「だが、もう一回
ふぅと一つ息を吐き、ムサシはラトリアの肩から手を離す。
「……もしそれで
ムサシの言っている事は、傍から聞けば都合のいい綺麗事である。だが、この男はそれを大真面目に成し遂げようとする人間だ。
だからこそ、既に次の一手を考え始めている。プランAが駄目ならプランB、状況の変化に合わせた別の手段に移ろうとしていた。
「――うん、分かってる。それでも、ラトリアにやらせてほしい」
だが、そんなムサシの懸念に対しラトリアは真正面から向き合った。その瞳に映る決意と
「……ラトリアはあの場所で、お父さんとお母さんに会った」
「「「――!」」」
ラトリアの告白に、ムサシ達は目を見開く。構わず、ラトリアは話を続けた。
「もう、会えないと思ってた……でも、会えた。話は、出来なかったけど……ちゃんと、ラトリアを送り出してくれた」
淡々と、しかし一言一言を噛み締める様に話すラトリアにムサシ達はじっと耳を傾ける。その時、不意にラトリアの体から“ドクン”と一つ、大きな鼓動が聞こえた。
「お父さんとお母さんは、別れる時……一つの贈り物と、
ふわりと、周囲に風が舞う。それがラトリアの体から流れてくる魔力によるものだと、リーリエとコトハはすぐさま気付いた。
「大丈夫。もう……
そこまで話すと、ラトリアはぺこりと頭を下げた。
「だから、お願いします。もう一度だけ、ラトリアにやらせて下さい」
今までの会話とは違う、はっきりとした口調で頼み込んで来たラトリアに、暫しムサシ達は閉口する……沈黙を破ったのは、リーリエだった。
「本当に、大丈夫なんだね?」
確かめる様なリーリエの問いに、ラトリアは顔を上げてこくりと頷く。揺るぎない決意を滲ませるラトリアの表情を見て、リーリエはムサシとコトハの顔を見た。
「お二人とも、私は……ラトリアちゃんに任せても、いいと思います」
リーリエがそう言うと、コトハも静かに頷いて見せた。
「うちも、ええと思う。体の状態も安定してるみたいやし……うまく言えへんけど、
それを聞いてほっと一息ついたラトリアは、残る一人であるムサシをじっと見詰める。
ラトリアの申し出には、完全に大丈夫だと言える根拠が乏しい。にも拘らず、ムサシ程感覚頼みではないリーリエとコトハはラトリアを支持した。
それは、理屈では無い
「……分かった、もう何も言わねぇ」
ふっと表情を緩めたムサシが、わしわしとラトリアの頭を撫でる。今度こそ、ラトリアは心から安堵した様だった。
「まぁ、そもそもこっちはラトリアに
「……! ありが、とう」
「礼はいらない、寧ろ言うのはこっちの……っと、あんまくっちゃべってる暇は無いな」
ぐんと首を回してムサシが視線を向けた先。そこには未だ口を開けたままの
「あれだけ魔力を放出しておいて、まだ……」
「多分、さっきの
「加えて、魔力の吸収もやったやろね……どうしても、ここでうち等を仕留めたいらしいなぁ」
ごたついている間に
「一つ、みんなに……お願いがある。ラトリアを後ろから……支えていて欲しい」
ぐっと腰溜めにマジカルロッドを構えたラトリアからの頼みに、ムサシ達は迷う事無く動いた。
リーリエは右肩を、コトハは左肩を。そしてムサシは、三人を背後から丸ごと抱え込んだ。
「ラトリア、心配はすんな。何かあったら、俺等が何とかする……だから、派手にやってやれ」
くくくっと口角を上げるムサシと、頷いてからぐっと腕に力を入れたリーリエとコトハを、ラトリアはちらりと一瞥する。
三人の顔には、絶望も諦観も無い。心も体も、頼もしく力強い仲間達に支えられたラトリアは――ひゅっと息を吸い、言葉を紡いだ。
「――――“
瞬間、マジカルロッドから伸びたケーブルとラトリアの体が、
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