第93話 VS. 地岳巨竜アドヴェルーサ 11th.Stage

 ◇◆


「竜核は、ドラゴンの心臓だ。そこを壊しちまえば、如何に地岳巨竜アドヴェルーサと言えど無事じゃ済まない……と言うか、十中八九死ぬ」

「一撃必殺を狙うんやったら、申し分のない場所やね。ラトリアはんが変に気を遣う必要もあらへんし」

「おう。幾つかの段階を踏む必要はあるがな……リーリエとラトリアはどう思う?」


 ムサシの問いに、二人は揃って首を縦に振り同意した。

 一度体内に【六華六葬六獄カタストロフィー】が入れば、下手に魔力吸収も出来ないだろう。何せ外から吸った時でさえ半日休眠する羽目になったのだから、直接口から入った六属性結合魔力を吸収などしたくは無いだろうし、本能的に避ける筈である。

 そういった諸々の事を踏まえた上で、難攻不落の要塞に対する突破口に見当をつけた訳だが……。


「でも、問題はどうやって地岳巨竜アドヴェルーサに口を開けさせるかですよね……超咆哮ハイパーシャウトのタイミングを狙う、しかないでしょうか」


 リーリエの言葉に、ムサシは首を横に振った。


「駄目だ、リスクが高過ぎる。これ以上地形をぶっ壊されるのも勘弁願いたい、どんどん戦い辛くなるからな……だから、咆哮シャウト関係無しにこっちで開けざるを得ないような状況を作る」


 ムサシはそう言って、今まで戦って来た時の光景を思い出す。


「あいつは殻に籠る時、口を開けて苦悶の声を上げていた。そりゃあもう、辛そうにな。だから、それをもう一回やって貰う。ラトリアに力は温存して貰いつつ、俺とリーリエとコトハでその状況を演出をするんだ」

「どうやるん?」

「思わず悲鳴を上げちまうくらいのダメージを与えるのが手っ取り早いが、正面からは無理だ。それを踏まえるなら、俺はあの巨体を支える“四本の脚”のいずれかを狙うのが良いと思う」

「脚、ですか」

「ああ。脚部は移動の要だ、よりスムーズに動かして移動力を確保する為にどうしても他の部位に比べて、外殻のが大きくなる」

「となると、狙うのはやね」


 顎に手を当てて思案したコトハの言葉に、ムサシは頷いて見せる。

 地岳巨竜アドヴェルーサはその強固な守り故に、馬鹿正直に外殻の上から殴りつけるのは得策とは言えない。

 なので、外殻の間を縫って攻撃を当てるのは脚部の中でも脆く、尚且つ機動力を削げる部位――腱となる訳だ。


「一本斬れれば、それだけでも十分。成功するかどうかは分からないが、やってみる価値は――うおっ!?」


 言葉を続けようとした時、地面から突き上げるような衝撃がムサシ達を襲う。

 バッと地岳巨竜アドヴェルーサの方を見れば、土壁を完全に振り払い終わり、大きく一歩足を前に踏み進めている姿が、全員の視界に飛び込んで来た。


「……これ以上迷ってる暇は無さそうだな。コトハ、俺と一緒に前に出るぞ。多分、仕上げ・・・をやるのはお前だ」

「りょーかい」

「リーリエ、後方で援護を頼む。ラトリアはいつでもブッパ出来る様にスタンバイだ」

「はいっ!」

「ん……わかった」


 各々が役割を果たすべく準備に入る。ムサシはコキコキと体を鳴らし、金重かねしげを握り直した。


(さて……一番努力せにゃならんのは


 ムサシの脳内に、自分の全力を受け切った瞬間の地岳巨竜アドヴェルーサの姿が蘇る。

 純然たる力押しが通用しない以上、膂力頼みの戦い方は出来ない。つまり、“技術ワザ”を最大限に用いなければならないという事だ。

 それも、これまで戦って来たドラゴン達に向けていた様な粗削りの物ではなく、的確に弱所を抉り取れる“重さ”と“精度”を兼ね備えた剣術である。

 今までのムサシは、意識しつつもどこか筋肉パワー任せの剣術を用いて来た。今回、そのツケが地岳巨竜アドヴェルーサという壁となって現れたのだ。


 しかし――それにムサシが尻込みする事は無い。壁は“乗り越える物”か“壊す物”。どん底から頂まで登り詰めたムサシにとって、この機会は逆にチャンス・・・・でもあったのだ。


(折角だ、もう一段上・・・・・に登らせて貰おう)


 ムサシが無意識にくくくっと口角を釣り上げた時、ぼうっと全員が温かい光に包まれる。リーリエによる強化魔法が施された証だった。


「意思の疎通は【念信テレパス】で行いましょう。幸い此処は遮蔽物がありませんから、お二人が地岳巨竜アドヴェルーサの傍まで接近しても、私とラトリアちゃんがいる位置との交信は十分に可能です。強化は【膂力強化ストレグフォース】と【加速アクセル】、コトハさんには追加で【腕力強化アムフォース】も付けます」


 テキパキと術式を組んでいくリーリエに、ムサシとコトハは頷いた。口に出さずとも互いに何が必要かを把握出来ているのは、偏にこれまでの経験故にだ。


「よし……ラトリア。一応タイミングはこっちで指示するつもりだけど、もし自分でイケると思ったら迷わずやれ」

「え……いい、の?」

「おう。地岳巨竜アドヴェルーサの周りは兎に角荒れてる・・・・からな、直近にいる俺とコトハじゃベストな瞬間を見逃す可能性がある。その点、ここは全体がよく見えるからな……オッケイ?」

「……わかった。任せて」


 マジカルロッドを握る手にぎゅっと力を入れながら頷いたラトリアを見て、ムサシは満足げに微笑んだ。そして、両の脚に力を漲らせる。


「っしゃあ、したらば行くぞオラァッッ!!」

「【一式いちしき迅駆蒼雷じんくそうらい】ッ!」


 ムサシが吼えると同時、コトハは自身の魔法を発動させ脚部に青い雷を纏う。

 次の瞬間、二人は爆発的な加速を以って跳び出した。残ったリーリエとラトリアとの距離はみるみるうちに開いていき、代わりに重々しく佇む地岳巨竜アドヴェルーサが迫る。


(さぁ考えろよ俺、どの脚を狙えばいい?)


 風を切って疾駆する体よりも速く思考を加速させ、ムサシは地岳巨竜アドヴェルーサを凝視する。

 山を思わせる巨躯を支えるのは、これまたとてつもない太さを有する四本の巨大な脚だ。

 計測不可の体積とそれに見合う超重量を有する地岳巨竜アドヴェルーサの自立を支える重要な部位。足裏部の面積も途方もなく広く、接近した際に踏み潰されればまず無事では済まないだろう。


 しかし――ムサシは見出す。目も眩むほどに巨大で強靭な脚部に潜む、突破口を。


『……! コトハ、左前脚・・・を狙うぞッ!!』


 ムサシの念話を受けて、コトハは視線を細めて指定された部位を見据える。


『足首を覆う外殻の隙間が、他の脚より若干広い。加えて左側面側はもう山間部を抜けてる、あれなら山肌から振動でじゃんじゃか崩れてくる土砂を気にする必要が無ぇ!』

『りょうかいッ!』


 攻撃箇所を厳選したムサシとコトハは、進行方向を変えて一気に左前脚へと肉薄する。しかし、対する地岳巨竜アドヴェルーサもまた、排除すべき外敵と認識している二人に対して行動を起こした。


「グルルオッ!」


 前へ進もうとするモーションをそのままに、地岳巨竜アドヴェルーサはムサシとコトハに向けて左前脚による蹴り・・を放とうとしたのだ、が。


「――【範囲収束エリアカヴァール】・【重力グラビティ】・【加算アディション】っ!!」


 それを後方から視認していたリーリエが、即座に魔法を発動させる。地岳巨竜アドヴェルーサはその巨大さ故に、距離を置いているリーリエであっても全体の動きを掴むのは容易であった。

 リーリエの【重力グラビティ】は常人よりも高い効果を発揮する代物であるが、それにリーリエは【範囲収束エリアカヴァール】という魔法を組み合わせて効果範囲を敢えて・・・狭めた。

 無為にそうした訳では無い。範囲が狭まった分、【重力グラビティ】はその密度・・を二字曲線的に高めたのだ。

 そこに【加算アディション】によるブーストがかかれば、本来は対象の動きを阻害する妨害魔法の【重力グラビティ】に……“力”が、宿る。


「グルアッ!?」


 己の頭上に突如現れた黒い魔法陣から放たれた濃密な重力によって、地岳巨竜アドヴェルーサは脳天をピンポイントで殴りつけられた・・・・・・・

 リーリエが咄嗟に効かせた機転により、地岳巨竜アドヴェルーサは僅かに動きを硬直させる。

 しかし、この巨竜はムサシの全力を受け切って見せた猛者である。動きを止めたのは、本当に一瞬であった。


 だが、前線の二人にとってはそれだけで十分。


『ナイスだリーリエ!』

『おおきに、リーリエはん!』


 簡潔に礼を返したムサシとコトハは、硬直の隙に左前脚の側面に迷う事無く回り込む事に成功する。同時に、二人の体から空気を震わせる闘気が爆発的に放出された。

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