第84話 VS. 地岳巨竜アドヴェルーサ 5th.Stage
「グォォォォォォォォォォォォ……」
斬撃による衝撃が完全に抜けてから、
「ふぅ……」
息を整えながら、ラトリアはマジカルロッドをぐっと腰溜めに構える。バシャリと砲身を展開させ、詠唱の体勢に入った。
「――
最初の
肩に掛かるコートがゆっくりとはためき、ラトリアの全身が光を帯び始める。直近では初めて見るその光景に、俺は思わず目を奪われていた。
「
やはり、ラトリアの体に埋め込まれたあの機械が受け持つ役割はかなり多い。ムカつく事だが、魔法科学研究部で博士が行った施術が、今のラトリアを助けているのは間違いなかった。
だからと言って、連中を擁護する事なんて絶対に無いし、やった事を許容するつもりも無い。非人道的手段を用いてラトリアの尊厳を踏み躙っている時点で、連中に大義なんざ何一つ存在しないからな。
「【
手順を経て、遂に魔法が完成する。発生する衝撃波に備えて、俺は腕の中に抱えたリーリエを守る為に、体をずいと動かして盾とした。
「……
直後――周囲の大気を根こそぎ砕く極太の光線が、マジカルロッドから放出された。
極彩色の大魔法は、一切の抵抗に捕らわれる事無く一直線に
「――――――!!」
己に迫る脅威を捉えた瞬間、
(さぁ、どうする?)
俺の斬撃を凌いだ時の様に、純粋な防御力で受け切るのか。それとも、魔力吸収を用いて切り抜けるのか。若しくは……ラトリアの魔法の前に、崩れ去るのか。
当然、願うべきは【
そして――俺の不安は、的中した。
「グルアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
地平の先まで
次の瞬間、その頭にブチ当たる筈だった【
「んなっ!?」
まるで、突然見えない壁が現れた様だった。恐らく、
(障壁的な何かか……?)
予測としては、
だが、もしそうであればその盾が持つ強度は【
「うっ……ぐぅ……!」
バキ、バキと地面に足を沈み込ませながら、ラトリアの体がじりじりと後ろに退がる。
やばい、このままだと押し負けて後ろに
「【
詠唱と共に紫色の雷を纏って己に筋力強化を施したコトハが、体勢が崩れ掛けていたラトリアの体を後ろから支える。
それにより、何とかラトリアはひっくり返らずに済んだ。しかし、依然として【
このままだと、障壁を突破するよりも先にラトリアが限界を迎える。そう考えた時、俺の両目は
(……! あの野郎、魔力を吸い始めやがったッ!)
やはり使って来たか。六つの光が一斉に
こうなってしまえば、もうどうしようもない。悪戯にラトリアが魔力を失う前に、もう止めさせるべきだ。
「ラトリアッ、もういい! 撃ち方やめ!!」
俺が叫ぶと、ラトリアはちらりとこちらを振り返り、悔しそうな表情を浮かべながら徐々に魔力を収める。
その時――俺達の耳に、聞き慣れない
「グ、オォォォォ…………」
俺とコトハとラトリア、腕の中に居たリーリエでさえ顔を上げ、一斉に
そこには、大分威力を弱めた【
今までとは明らかに違う状態の変化に、俺達の間に疑問の嵐が巻き起こった。【
「……ふっ!」
前触れなく生じた隙に、ラトリアは咄嗟に反応し再度魔力を込めようとした――が。
「あうっ!?」
魔力を流し込んだ瞬間、バシュン! と言う音と共に【
「ラトリアはん!」
慌ててその体を受け止めたコトハの腕の中で、ラトリアは苦しそうに不規則に息を吐いていた。
フル稼働していた俺の頭は、魔力残量が限界に近付いていた所で残っていた魔力を一気に消費しようとした結果、急激な魔力枯渇に陥ったとのだと結論を出した。
「コトハ、ラトリアをこっちへ! 体に滅茶苦茶な負荷が掛かっちまってる!!」
「うんっ!」
ラトリアを抱えたコトハが、一足で俺の傍まで駆け寄って来た。兎に角、まだ手元に残っている
俺がラトリアを引き受け、リーリエと共に腕の中で支える。手の空いたコトハが素早く
「うおっ!?」
「きゃっ!」
突然、辺り一帯で地響きが発生した。不意打ちに思わず手元が狂ってしまったコトハから放り出された
「だぁぁああっ! 今度は何だよ!?」
次から次へと襲い来る
不可解なダメージを受けたらしかった
俺が目を見張った原因――それは、地に伏せた
重苦しい地響きの正体は、アレだ。大地を強引に引っ張ったかの様に見えるあの
「なんや、あれ……」
ぽつりとそう呟くコトハに返す答えを、俺は持ち合わせていない。確かなのは、俺達の思考が完全にパンク状態に陥ったという事だけだった。
「オオオオォォォォ…………」
そんな俺達の前で、盛り上がった地面はどんどん
結果、緑が生い茂るエリアに突如として巨大な土山が出来上がった。地響きは止み、今までの騒乱が嘘の様に静寂が広がる。
「……止まっ、た?」
「ああ……恐らく、活動自体も停止してる」
風の音が周囲を漂う中、突如として訪れた安寧に……俺達は、暫くその場から動けずにただただ呆然とするしかなかった。
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