第81話 VS. 地岳巨竜アドヴェルーサ 2nd.Stage
「本当なら、もうちっと戦術を練った所で挑みたい所だが……そうも言ってられない」
手足にわずかに残る痺れを振り払いながら、俺は周囲を見回す。
俺が立ち塞がっていた場所とその後方を除いて、全てその状態である。そして、俺の前方には
巨大なトンネルを逆さまにひっくり返した様な、急造の通り道。仮に同じ規模の道路を人間の手で作ろうとすれば、一大公共事業となるだろう。
しかし、
「全乗せ、という事は……≪ネーベル鉱山≫の時と、同じ事をやるんですね?」
息を整え、体の土埃を払い落としながらリーリエが立ち上がる。俺は小さく頷き、右手の
「あの野郎の攻撃は、間違い無く一発一発が
「構いません。一点突破の最速最大火力を生み出すのならば、ムサシさんの言う通り全乗せ以外に選択肢はありませんから」
「悪いな、頼む」
ギチリと奥歯を噛み締めながら、俺は
過去の出現時、
攻撃の詳細な内容までは予測出来ない。言っちまえば、アイツの繰り出す技は全部初見だからな……ただ、あの図体でしょっぱい攻撃をして来るとは微塵も思っていなかった。
だから、“ある意味”予想通りなのだ。誤算だったのは、小休止を挟み体勢を整えながらやる暇なんてのは無かったって事だ。
「≪ミーティン≫の避難が終わるのを待って正解だった。こんな馬鹿げた一発を繰り出してくるヤツ相手にして、あそこに人なんか残しておける訳がねぇ」
ちらりと背後を振り返れば、遠くまで伸びる
「次の一撃が、どう来るかは分かりません……やりましょう、ムサシさん」
「うっし……コトハ、ラトリア。すまんがありったけの
「――! まかしといて」
「いち、に……ストラトス号に入っているのも、持ってくる」
リーリエが
リスクが高いのは否めない。何せ本来なら十二分に情報を集めた上で討伐するって計画だったのに、全部を全部すっ飛ばしていきなり決めに行く訳だからな。
≪ネーベル鉱山≫でリーリエの補助を受けて俺が繰り出した一撃は、威力規模共に間違い無く今の状況で出せる
コトハの【
ラトリアの【
そう考えれば、常人とは比べ物にならない突き抜けた量の魔力を有するラトリアが、魔力枯渇と引き換えに繰り出す【
つまり、もし魔力を吸われてもそれが
しかし、それでも魔力吸収によってリーリエに過度の負荷が掛かる可能性がある事には変わりはない。なので、超短期決戦が必須となる。
でもって、幸いな事に全乗せ状態の俺は数瞬と言える時間の中で最大の一撃を繰り出せる。つまり、≪ネーベル鉱山≫を叩き斬ったあの斬撃だ。
全ての条件をクリアし、この切迫した状況で切れる最善のカードである。威力的にも規模的にも、
(ただ……問題なのは、
静かに意識を研ぎ澄ませていく俺の脳内に、現実的な懸念が浮かび上がる。
当然、俺はこの一撃で
防御力、魔力吸収以外の能力、etc.……分からない事だらけなのだ。圧倒的情報不足の中、何もかもを前倒しでやらなきゃいけない。改めて考えると、滅茶苦茶無謀だなオイ。
「二人とも、一つ聞かせてくれ」
「うん?」
「なに?」
集中力を高めているリーリエを邪魔しない様にしながら、俺は気になっていた
「さっきの竜巻あったじゃんか。アレ、魔力的なもんって入ってたか?」
「入っとらんかったね」
「ん……ラトリアも、特に感じなかった」
「成程ね。じゃあアレは
げんなりしながらそう吐き捨てた俺に、コトハは溜息を吐いて同意し、ラトリアは小さく頷く。
もしかすると、
そう考えると、俺とアイツは
「……ムサシさん、こっちは準備が終わりました」
その言葉と同時に、リーリエの
「おっけ、こっちはいつでもいいぞ」
「はい。では……」
すぅ、とリーリエが息を吸う音が聞こえ……詠唱が、始まった。
「――【
夥しい数の強化魔法が一つ発動する度、俺の体が軋みを上げる。対象者の地力が高ければ高い程その効果を増す光魔法の身体強化は、相変わらず俺との相性が抜群だった。
「ありがとな。ちっとばかし持ち堪えてくれ」
「は、い……」
必要な分全てを詠唱し終え、苦し気な表情を作りながらも小さく笑ったリーリエに、俺もまた笑みを返した。
「行ってくる――――
白光を身に宿した俺は、一息吸って全力で地面を蹴る。瞬間、回っていた世界は……その時を、止めた。
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