第73話 道中の護衛
≪ミーティン≫の放棄に当たり、
と言っても、規模が規模である。当然、≪ミーティン≫の人口全てを避難先に住まわせるのは不可能なので、入りきらなかった分をカバーする為に、仮設住宅を一ヶ所に集中させて建てる事になった。
場所は
資材は、各地から商隊が運んで来てくれた。俺が知っている様なサクサク組み立てられるプレハブ式では無い木造の物だが、ドワーフを中心とした腕のいい大工達が魔法を使いながらガンガン建築している。
出来上がった家屋に順次避難民が入り、撤退は今の所順調だ。仮説住宅が集まって出来た小さな町の護衛も、シンゲンさんを始めとした中央から派遣されたスレイヤーと≪ミーティン≫のスレイヤーが連携し、きっちりと行っている。
「んー、やっぱ昼は平和だな」
「ですね」
周囲に目を光らせながらも、俺とリーリエは頷き合う。
避難計画の進行管理の補助を行っているアリアを除いた俺達のパーティーは、避難民を乗せた馬車の一団の護衛を行っていた。時間帯は真昼なので、さんさんと陽光を浴びながらの行軍である。
これだけの人間が動けば、餌を求めるドラゴンはそのニオイを確実に捉える。そうやって襲って来るドラゴンを撃退する為に、こうして随伴護衛をやっているのだ。
しかし、今の所は平和そのものである。と言うのも、日中にこれだけの数で動いている時点で、小型種の連中だけでは襲い辛いのだ。
ましてや、その規模に合わせた数のスレイヤーがピリピリと辺りを警戒しながら一緒に歩いている訳で、獲物の機微に聡い向こうにも、その空気は伝わっている……つっても、
「こっちの目が効き辛い夜間はしつこく襲ってくる癖に、昼はパッタリ。ホント、良い根性してるよ全く」
「理には叶っとるなぁ。ドラゴンは夜目がうち等よりずっと効くし、うち等人間の動きが夜は鈍る事を知っとるから……ムサシはんは、
「まぁな。十年山猿やってたんだから、もうバリバリよ」
「ふふっ、頼もしいわぁ」
クスクスと笑うコトハの視線を受けながら、俺はフンスと胸を張る。
避難先への移動は、夜を通して行われる。残念ながら、ゆっくりしている時間は無いのだ。何せ、
「リーリエ、
「はい。直近でギルドから伝えられた情報だと、まだ休眠状態らしいです」
「よし」
リーリエの話を聞いた後、俺は歩みを止めずにあの巨竜が居る方角を見て目を細める。
なので、今は近くにギルドの監視員が常に張り付いて逐一鷹を飛ばしている。その報告を聞く限りは、まだ大丈夫な様だ。
だが、奴さんは未知が大部分を占める太古の存在。ふとした拍子にいきなり目を覚ます事も考えられるので、予断を許さない状況が続いている。
故に、早期に避難を完了させる必要がある。だから昼夜問わず出立の準備が出来た者から随時街を脱出させているのだ。
近隣から掻き集めた分も含めて馬車はかなりの数を確保しているが、それでも限度はある。限られた物を効率的に運用する為に、ギルドが計画を立て実行しているのだが……やはり、夜間は昼に比べて遥かに危険だ。
獲物を視界に収めながらもどかしい思いをしていたドラゴン共が、人間側の視界が悪くなる夜になると一気に動き出すのだ。
宵闇に紛れて襲撃を敢行して来る連中を、俺達も全力で迎え撃つ。奴等は何も馬車に乗っている人間全員を狙っている訳じゃない。一人二人、護衛の穴を付いて連れ去るつもりで全方位から波状攻撃を仕掛けて来るのだ。
迎撃の混乱に乗じて避難民を攫われない様にする為に、夜間は昼の倍スレイヤーを配置して事に当たっているが、どうしても受け身になってしまうのが痛い所だ。
そこで、夜は俺に白羽の矢が立つ。人外染みた夜目を持つ俺が他のスレイヤーが防衛にガン振りしている間、俺は唯一人
連中からすれば、辺りが真っ暗なのにも関わらず猛然と自分達へと斬りかかって来る俺の存在はイレギュラーな物らしく、ギョッと目を見張って動きを一瞬止めるんだが、その間に俺はポンポンと首を飛ばしていく訳だな。
「ムサシさん、本当に休まなくて大丈夫ですか? 毎日、夜も護衛に出てるのに……」
「今日も、殆ど寝とらんよね?」
「……心配」
おおう、確かに今の俺は完全にオーバーワーク状態である。三人が不安がるのも無理は無いが、そこは俺の鍛え上げた超耐久があるから全然問題無しだ。
「大丈夫だ、この程度屁でもねぇ……心配してくれてありがとな」
ぐるんぐるんと腕を回してから力こぶを作って見せた時、不意に俺はじっとりと体に纏わりつく視線を感じた。
バチっと思考を切り替えてその方角を見れば、そこには街道から離れた場所にある森へと続く雑木林がある。その木々の隙間に……居た。
「
「……偵察隊ですか」
「ああ」
即座に得物へと手を伸ばしたリーリエとコトハを、俺は制する。
「隠れてんのはあそこの雑木林だ、ここからだと距離がある……ラトリア、
「ん……任せて」
俺がちらりと視線を動かすと、ラトリアは小さく頷いて背中に担いでいたマジカルロッドを腰溜めに構えた。
アイツ等は
だが、そうはさせない。幸い今居る場所からダッシュで向かわずとも、ウチには優秀な
「……見つけた」
キュイキュイと右眼の
皮肉にも、護衛任務が始まってから何度か経験したドラゴンの襲撃が、ラトリアの魔力弾による狙撃技術を格段に向上させた。お陰で、今は対象とかなりの距離があってもほぼ一撃必中と言う領域に来ている。
だが、そうして戦っていれば当然周りにラトリアの能力がバレる。そこらへんは扱う属性をぼかしつつ、魔力弾による攻撃はそういう魔法なんだと言う事で押し通している状態だ。
いずれ限界は来るかもしれないが、少なくとも今はそれで凌げている。【
「やるよ?」
「おう、頼む。バシッといっちゃってくれ」
「ん……」
すぅー……と深く息を吸ったラトリアは、マジカルロッドを握る手に力を入れる。展開された砲身が、刹那の輝きを放った。
「
キンッ! と一瞬甲高い音を鳴らして圧縮された魔力弾が空気を引き裂いて撃ち出される。射撃からコンマ八秒程で、遠くで発生した何かが弾ける乾いた音を、俺の耳はしっかりと捉えた。
「
間を置かず、二射目が行われる。繊細な手元の操作で極僅かに動かされた砲身から飛び出した魔力弾は、雑木林に隠れた残りの
「……終わった」
「ナイスショットだ、ラトリア」
ふっとマジカルロッドを下げて一つ息を吐いたラトリアの頭に俺は手を乗せて、わしわしと撫でて労った。
「この分なら、十分に他のクエストでも耐えうるレベルだな」
俺達の動きを察知し、慌てて駆け寄って来た他のスレイヤーにサムズアップをしながら、俺はポツリとそう呟いたのだった。
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