第41話 アカい魔法少女
討伐した
「いよぉし、こんなモンだろ。大漁大漁!」
「かなりの量になりましたね……でも、半月後とかにはまた元に戻ってるんだろうなぁ」
「リーリエ、それ以上いけない。不毛過ぎる」
「ですね……」
こんもりと一か所に纏めて積み上げられた
しかし、こればっかりはしょうがない。こいつ等の繁殖速度を追い越すなんて土台無理な話、俺達に出来るのはこうやって人間の生活圏を脅かしそうなグループを間引きする事だけだ。
ある程度こっちで処理しちまえば、後の生態系に影響を及ぼしそうな分は自然淘汰される。主に大型種のドラゴンとかによって。
「ラトリアはん、こっち向いてな? 顔の血拭くから」
「ん……むぐぐ」
俺とリーリエの後ろでは、コトハが解体時に出た血で汚れたラトリアの顔を丁寧に拭いていた。
ラトリアにとって、討伐したドラゴンの解体作業は今回が初めての経験だった。≪ガリェーチ砂漠≫で行き倒れていた時に遭遇したであろうドラゴンも、≪ジェリゾ鉱山≫で戦った
最初は慣れている俺とリーリエとコトハでやっちまおうかと思ったが、ラトリアが「自分もやってみたい」って申し出て来たので、俺が予備の解体用ナイフを渡した。
そこからは、コトハの指導の下おっかなびっくりやってたなぁ。ま、この解体作業はドラゴン討伐とは切っても切り離せない作業だからな、早い内に慣れて貰えればそれに越した事は無い……のだが。
「……ラトリア、後で川に行ってしっかりと血を洗い流そうな」
「……? うん」
不思議そうに首を傾げるラトリア。しかし、可愛らしい動作とは裏腹にその全身はソ連の国旗よりも赤い鮮血で染まっていた。
顔はコトハの手によって大分綺麗になっているが、それ以外は
「おかしい……うちの教え方ってそんなに下手くそやったやろか……」
「いえ、コトハさんは悪くないと思います。ただちょっとその……ラトリアちゃんが、
血を吸って重たくなったタオルを手に疑問符を浮かべまくっているコトハの背中を、リーリエが優しく叩く。
あれだな……暫くの間は血抜きを済ませておいた亡骸を解体して貰おう、うん。
◇◆
「きったねぇ」
「泥水ですね……」
「昨日雨でも降ったんやろか」
目の前を流れるウンコ色の川を目にし、俺とリーリエとコトハは顔を顰める。流石にこの中で洗うのはいかんでしょ、寧ろ体が泥まみれになって余計に汚れるゥ!
「すまんなラトリア、ちょいここで体を洗うのは無理そうだ」
「ん……へいき。ラトリアには、ちゃんと体をきれいにする方法がある」
「へ?」
何のこっちゃと思っていると、ふわりとラトリアの防具や髪が揺らめく。どう見ても体から魔力を放出させる事によって生じている現象だと思うが……。
俺が困惑していると、何か事情を知っているらしいリーリエとコトハが焦った声を上げた。
「あっ、ラトリアちゃん!」
「ちょい待って――」
慌てて二人が止めるよりも早く、ラトリアの体が強い光を放つ。次の瞬間、ラトリアの小さな体から大量の魔力が一気に放出された。
「ふんっ」
ボフン! と言う音と共に舞い上がる砂塵。落ち葉も巻き込んで派手に辺りの空気を吹き飛ばした後、やがて魔力の放出が止まった。
オイオイ、何だ今のは……と思ってラトリアを見るとあら不思議! 先程まで血で汚れていたラトリアの体が防具も髪も含めてピッカピカだぁ!!
どうやら、今の魔力放出の勢いを利用して全身の汚れを吹き飛ばしたらしい。魔力保有量が桁違いのラトリアにしか出来ない力業だ。
「……これで、だいじょうぶ」
「お前、すげぇ洗浄方法持ってんな……」
「ぶい」
ふんす、と胸を張ってVサインを出すラトリアに、俺は微笑ましい物を感じて思わず苦笑する。しかし、直後に感じた鬼の様な気配でハッと我に返った。
「……ラぁ~トぉ~リぃ~アぁ~ちゃ~ん? それは使っちゃダメって言ったよね!?」
「……はっ!?」
やっちまった、と言う顔になったラトリアに容赦無く詰め寄るリーリエ。その額からは、にょっきりと二本の角が生えていた。
「おいリーリエ、何もそこまで……」
「はい、ムサシはん」
間に入ろうとした俺に、コトハがポンとタオルを差し出す。あれ、俺は別に体そんな汚れて無かった筈なんだが。
しかし、そこで俺は気付く。溜息を吐くコトハの全身がいつの間にか血塗れになっている事に。そしてそれはリーリエもまた同じ……ハァッ! まさか!?
俺は受け取ったタオルで自分の顔を恐る恐る拭いてみる……はい、血がべったりですね。視線を下に落とせば防具もベッタベタだった。
「あー……成程。そりゃこんな近くであんな真似すりゃ周りが汚れるわな」
「それもそうやけど、アレの一番あかん所は使うとラトリアはんの魔力がかなり持ってかれてまうところどす」
「ナヌ!?」
バッとリーリエとラトリアの方に目を向ければ、そこには詰め寄られながらリーリエに体を支えられ口に
「もー! 折角魔力の消費を抑えながら戦う方法を見つけたのに、これじゃ意味ないでしょ!?」
「うー……ごめん、なさい」
ぷりぷりと怒りながらしっかりと魔力を補給させているリーリエと、甘んじてそれを受け入れるラトリアを見て思う……よっしゃ! 次までにもっと体を汚さずに済む様にギチギチに解体方法を教えようそうしよう!
◇◆
ベースエリアに戻った俺達は、取り敢えず今手元にあるだけの布を全て使って身を清めた。後はコトハとリーリエの作る昼飯を食って帰るだけだが、俺は先の戦闘において目に収めたラトリアの戦い方に、兼ねてより懸念していた
「んー……やっぱり、
「れーと?」
俺の横で地面に座りながらリーリエ達の様子を見守っていたラトリアが、首を傾げる。
「一発撃って、続け様にもう一発を撃つまでに掛かる時間だよ。今のラトリアは、一度魔力を出してからそれを操作して密度を上げて、弾丸に変えてから撃ってるだろ?」
「うん……」
「それだと、どうしても次の一発を撃つのに
「……たしかに」
俺の言葉に、ラトリアは納得がいったように頷く。
パーティーの構成が変わった事によって、コトハが動き易くなり後方に居るリーリエとラトリアのカバーをし易くなったのは確かだ。
しかし、物事に絶対は無い。特に多数のドラゴンを一度に相手にしている場合は、何が起こるか分かったもんじゃないのだ。
「実際にフィールドに出て実感したが、今使える狙撃以外にも近接射撃技術も必要かもなぁ。飛距離を削る代わりに、近寄って来たのを咄嗟に迎撃出来る位のストッピングパワーを持たせたヤツ」
「……その射撃を行うには、
「そう言う事。いきなり現れた複数の相手に当てるなら、“一撃必中”よりも“下手な鉄砲数撃ちゃ当たる”の方がいい……あ、別にラトリアの射撃が信用出来ないって話じゃないからな? あの腕前なら当てられるかもしれんけど、より確実な安全策を取るならそっちの方がいいんじゃねって話」
「……やって、みる?」
そう言って、ラトリアは横に置いていたマジカルロッドをポンポンと叩く。ふむ、確かに飯を待っているだけの俺等は正直暇を持て余している……よし。
「じゃあ、ちょっと触りだけやってみるか。あくまでイメージしかない段階だから、出来るか出来ないかの確認だけな」
「ん……わかった」
俺とラトリアはその場で立ち上がると、リーリエとコトハの元へと向かう。今からやる実験の旨を伝えてから、適当に開けた場所に向かうとしよう。
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